広大なインターネットの世界では、毎日のようにあちこちで“炎上”という現象が起きています。誰もがスマートフォンでツイッターやインスタグラムなどのSNSを使うようになってからは加速度的に増加し、炎上の対象は芸能人などの有名人、企業、個人などさまざま。もしかしたら、あなたもある日突然、何気ない投稿がきっかけで炎上に巻き込まれてしまうかもしれません。そんな、ネット上の「炎上案件」や「誹謗中傷」をテーマにしたマンガが、コミックDAYS連載作品『オトリ ―過剰殺傷取締官・斑目詩子―』。ネット上の炎上や誹謗中傷がどのように起きるのか、加害者、被害者双方にもたらすものは何なのか、などを知ることができます。


清純派女優、路チュー写真をスクープされる!


ある日、厚生労働省が「オトリ」という部署を新設しました。正式名称は、「厚生労働省精神衛生保安局  オーバーキル取締部」。ネット上の炎上や誹謗中傷は深刻な社会問題であり、たくさんの人が一方的かつ過剰な攻撃に晒されることで、心身の健康を害してしまうという“オーバーキル(過剰殺傷)”が多発していることから、それを取り締まるために作られました。ちなみにニュースなどでよく聞く「マトリ」は厚生労働省に所属する麻薬取締官の通称で、薬物犯罪の捜査などを行っています。

ネット炎上や誹謗中傷の救われない現実。求められるのは、きっちりやり返す捜査官!『オトリ ―過剰殺傷取締官・斑目詩子―』_img1
 

この「オトリ」が発足する1週間前のこと、清純派の新人女優・坂口梓は、初出演映画で大人気ミュージシャンの吉原大輝と共演することになりました。実は梓にとって大輝は小学生の時から憧れの存在! とても紳士的に接してくれ、大ファンだったことから浮かれてしまい、気づけば彼の部屋についてきてしまっていました。でも、すんでのところで我に返ります。事務所からは恋愛禁止を言い渡されており、今は初めて映画で主演を演じるという大切な時期。でも、彼の強引さに流され、某週刊誌に大輝との路チュー写真を撮られてしまいました。

ネット炎上や誹謗中傷の救われない現実。求められるのは、きっちりやり返す捜査官!『オトリ ―過剰殺傷取締官・斑目詩子―』_img2
 
 

決まっていた仕事はすべて降板となり、梓の公式SNSは大炎上。週刊誌はさらに追い打ちをかけるように、第二弾スクープと称して大輝の独占インタビューを掲載。そこには、「梢が強引に迫ってきただけで、彼女とはただの友達」という保身としか思えない内容が綴られていました。そのため、梢のSNSはさらに炎上。大輝のファンと思われる人から、「ビッチ」だの「死ね」だのと誹謗中傷の大嵐となり、梢はますます精神的に追い詰められていきます。

ネット炎上や誹謗中傷の救われない現実。求められるのは、きっちりやり返す捜査官!『オトリ ―過剰殺傷取締官・斑目詩子―』_img4
 
 


「あなたの心中お察しします」。いよいよ「オトリ」が動き出す!


憔悴しきった梢に声をかけてきたのが、「オトリ」の斑目詩子でした。雑誌の取材かと思い、警戒心を見せる梢に対して、斑目は「あなたの心中お察しいたします。こんなに一方的では悔しいですよね…」と、なぜかそろばんを取り出します。「御破算で願いましては――」とおもむろに計算しはじめたのは、梢が被った損失。映画やドラマ、CMを降板し、SNSで否定的なコメントを浴びせられ、悪質なコラージュ写真を拡散され…、と被害総額は1億8000万円也。

事務所から恋愛を禁じられていたとはいえ、たった1回の路チューという過ちに対する社会的制裁が大きすぎると指摘。「オーバーキル事案」と認定し、しかるべき措置を取るというのです。斑目は「オトリ」捜査官で、その任務は被害者の救済。彼女は梢に、やられた分だけきっちりやり返すと明言するのですが、一体どのように反撃していくのでしょうか?

というのは本作のストーリーですが、現実世界でもよくある話。有名人のセンセーショナルなスキャンダルが起きると、SNSにはさまざまな投稿が飛び交います。当事者への誹謗中傷をする人、個人情報を特定してばらまく人、梢がされたようにコラージュ写真などで笑いを取ろうとする人などさまざまです。投稿した人の大半は匿名で、ネット上の祭にでも参加するかのように、無責任な投稿を行っているのかもしれませんが、それが当事者をどれだけ傷つけているかという想像力が欠如している、ということも往々にしてある話です。また、実際にSNSの一方的な中傷のせいで心を病み、時には自殺してしまうこともあります。

今回の梢の場合ですが、そもそも自分から強引に誘ってきた大輝や、ネタになって売れればいいとばかりに、赤裸々な記事を書いた週刊誌の記者はこの炎上に全く関係していないと言い切れるのでしょうか?


炎上の被害者になっても、ほとんどが救われない厳しい現実。


しかし現実は、散々炎上したあとは、また次の炎上に興味の対象が移っていき、被害者が救済されることはほとんどなく、また新たな被害者が生まれるだけ。過ちを犯した人(犯したと決めつけられた人)は、非難されて当然とばかりに、過剰な攻撃をするという風潮にも問題があります。そういった現状があるからこそ、本作では、斑目をはじめとする「オトリ」の面々がそんな現状に切り込み、きっちりと「御破算」させていくことになります。

最近では、ネット上の匿名者による誹謗中傷や炎上に対して、発信者情報開示請求を行って相手を特定し、削除要請や謝罪、損害賠償請求などを行う被害者の動きもありますが、時間もお金もかかる割には大して報われないのが現状。「オトリ」がこの現実にも存在していて、被害者を救済して、やられたらやりかえすことができたらどんなにいいか、としみじみ考えてしまいます。

本作は、週刊「Dモーニング」誌上で開催された読み切りコンペ「連載獲得マッチ」で、読者からの支持を集めて連載を獲得したのですが、このSNSとは切っても切り離せない日常で、炎上はもはや他人事ではないからこそ、多くの読者の心に刺さったのかもしれません。

単行本1巻が2/21に出たばかりなのですが、1巻には「撮影や投稿お断り」を掲げているにも関わらず、ブロガーによって勝手に紹介され、迷惑を被ってしまう人気ラーメン店や、ストーカー行為に悩む人気アイドルが登場。ネット社会の闇の深さを感じ、どんよりした気持ちにさせられるエピソードが満載です。でも、このどこかユルいタッチの作風と、ちょいちょい挟まれる笑いの要素によって、楽しいエンタメ作品として仕上がっています。普段、SNSに投稿をしていない人でも、ネット社会に生きる現代人ならぜひ読んでおきたい作品です!

 

【漫画】『オトリ -過剰殺傷取締官・斑目詩子』第1〜2話を試し読み!
▼横にスワイプしてください▼

ネット炎上や誹謗中傷の救われない現実。求められるのは、きっちりやり返す捜査官!『オトリ ―過剰殺傷取締官・斑目詩子―』_img5

『オトリ -過剰殺傷取締官・斑目詩子』
野生のもぎ 講談社

炎上したら立ち直れなくなるまで叩きのめす――。現代にはびこる「過剰制裁」の犠牲者たちを救うため、政府が立ち上げた新組織・厚労省精神衛生保安局。「オーバーキル取締官」に抜擢された斑目詩子と迎井のコンビが、今日も弱者のために奔走する! 新感覚“懲悪”ストーリー!

ネット炎上や誹謗中傷の救われない現実。求められるのは、きっちりやり返す捜査官!『オトリ ―過剰殺傷取締官・斑目詩子―』_img6