私たちの生活は、歴史上のさまざまな発見によって支えられています。一方、科学が急速に進歩した現代でも、この世界には未解明の不思議と謎があふれています。でも、科学や物理と聞いただけで拒絶反応を示してしまうことはありませんか? かくいう私もバリバリの文系なのでその一人。コミックDAYSで連載中の『血戦のクオンタム ~量子世界の転生科学者~』は、“世界の法則”を発見した科学者たちが、なぜか女性の姿で産業革命時のイギリス・ロンドンに転生し、戦いを繰り広げる物語。と紹介しても、ちょっと意味がわからないかもしれません。実はこの作品、理系が苦手な人にこそ読んでもらいたい異色バトルものなのです。


人との交流を避け続けた変人・キャベンディッシュ


物語の主人公は、イギリスの科学者、物理学者のヘンリー・キャベンディッシュ。極度の人嫌いで他人と関わることを極力避けていた“変人”として有名でしたが、生まれは貴族。父が遺した莫大な財産があるため、生涯のすべてを研究に費やしていました。また、女性に対しては特に内気で、女性の使用人とやりとりする時はメモを渡すほど。

 

若い女性使用人はそんな主人のことをよく知らずに声をかけたため、キャベンディッシュに怒鳴られてしまいます。でも、「本当はもっと人と関わりたいんじゃないかなあ……」と想像を巡らせる彼女。実はそれが図星で、キャベンディッシュは部屋に戻った後、彼女を怒鳴ったことを激しく後悔していたのです。

 

落ち込んでいる彼が手にとったのは、「ニュートン力学」の本。17世紀後半にイギリスで活躍した科学者のアイザック・ニュートンは、ニュートン力学の確立や微積文法など発見し、今もその名前を轟かせています。

ニュートン力学によると、ボールを投げる瞬間の速さ、向き、高さが正確にわかれば、落下点は計算によって導き出せる。つまり、ボールの落下点は投げる瞬間に決まっていることになります。そのことから、キャベンディッシュは「未来は決まっているのだ」と。自分の孤独もまた、この気質を持って生まれた瞬間に決定していたと結論づけるのでした。しかしその時、心臓の激しい痛みに襲われます。苦しみながら意識を失いそうになる瞬間、彼が耳にしたのは、さきほどの若い女性使用人が恐ろしい表情をして語りかけた「本当にニュートンは正しいの?」という謎のひとこと。

 


死んだはずが、若い女性の姿に。さらに謎の怪物に襲われて。


次の瞬間、キャベンディッシュが意識を取り戻すと、なぜかテムズ河にかかる橋の上に座り込む若い女性の姿になっていたのです。わけがわからないキャベンディッシュは酔っぱらいの男に絡まれ、人通りの少ない場所へと連れ込まれそうになります。そんな“彼女”を助けてくれたのは、ボーイッシュな少女。「アイツらが来てる!」と叫び、女性になったキャベンディッシュを連れ、路地裏に逃げ込みます。「男が女に変わることはあるのか…」などと考えを巡らせていると、謎の化け物が現れ、橋の上でキャベンディッシュを襲った酔っぱらいの男に喰らいついてしまいます。

 

キャベンディッシュを助けた少女によると、あの化け物は“ペリル”。この世界では当たり前の存在のようですが、キャベンディッシュが生きていた世界には存在しないものなので、元来の研究者気質から、「私が学会に行っていない時期に発表されたのか…?」などブツブツと考えはじめます。意識が思考に逸れた瞬間、ペリルがキャベンディッシュに近づいてきて、それに気づいた少女は彼女をかばったためにペリルに捕まってしまいます。ペリルに首を掴まれた少女は「早く… 逃げて…」と言うものの、キャベンディッシュは腰が抜けてしまって何もできません。

「どうするキャベンディッシュ」

彼女の横で突然言葉を発したのは、一匹の黒猫。いまこの瞬間、“あの娘を助ける世界”と“このまま見てる世界”と“すぐに逃げる世界”の3つに分かれたといって、彼女に選択を迫ります。

 

黒猫はさらに追い打ちをかけます。キャベンディッシュが生きていた頃、誰かが食事やパーティーに誘ってくれたこともあったのに、断り続けてきた結果が晩年の孤独であって、また同じことを繰り返すのかと。死ぬ間際に見た若い女性使用人と同じ目で、「本当にニュートンは正しいのか…?」と黒猫に詰め寄られ、戦うことを選びます。一瞬のスキをついて少女を助けますが、反撃を喰らってしまいます。

気を失いかけたキャベンディッシュに黒猫は話し続けます。いまこの世界はキャベンディッシュが死んだ1810年から少し未来になる1849年のロンドン。彼が1766年に水素を発見してから約83年後だといいます。水素は世界中で一番軽い物体で酸素と反応しやすく、現在では燃料電池などで発電し、エネルギーとして活用されています。キャベンディッシュが初めて発見したことによって、水素の存在が人々にも認識され、この世界に存在することになったとも言えます。黒猫はそのことを指摘し、発見者であるキャベンディッシュには水素を目視することができ、それを増やしたり減らしたりと、自在に扱えることを教えます。

そのことを瞬時に理解したキャベンディッシュは、ペリルがいる場所の水素量を増やすことで水素爆発を誘発し、ペリルを焼き殺すことに成功。なんとか危機を切り抜けることができました。

 


「自分が発見した法則」が能力となる異能バトルが開幕!


突然、少し未来のロンドンに女性の姿で転生したのはなぜか? 自分が発見した法則を特殊な能力として駆使できるのはなぜか? 人を喰らうペリルという謎の怪物は何なのか? 彼女にそれらのことを教えた黒猫の正体は? などと多くの謎に満ちた一話はこうして幕を開けたのでした。

産業革命を迎え、活気に満ちたロンドンにペリルという謎の怪物が跋扈するこの世界線に転生してきたのは、実はキャベンディッシュだけではありませんでした。万有引力の法則で知られるニュートン、てこの原理や浮力の原理など、力の働きに関する発見を数多くした古代ギリシャの数学者、物理学者のアルキメデスなどが個性豊かな女性の姿で次々と転生。キャベンディッシュは水素を操る力を武器に、否応なしに死闘に身を投じていくことになるのです。

それにしても「自分が発見した法則」が能力となる異能バトルという斬新な設定に度肝を抜かれますし、ただの転生、女体化ものではないことは1話からひしひしと伝わってきます。転生前は世界的な天才学者なだけあって、自らの能力を使いこなす知力も半端ない。本作では随所に偉大な学者や彼らの発見について丁寧な解説があるため、バリバリの文系でもさくさく読み進められますし、知識も身につきそう。理系好きならもっと面白がれること間違いなし!

気になるのは、なぜ主人公がニュートンやアルキメデスなど、教科書に必ず載っているような学者ではなく、知名度がいささか劣るキャベンディッシュなのかということ。実はこの人、変人すぎて、さらには人と関わらずに生きていたために、水素以外にも、後世に明らかになる大発見をしていたのですが、誰にも知られることなく亡くなってしまい、死後にそれらの事実が明らかになります。これって実はチート能力の可能性を秘めているということかも?

また、ニュートン力学を根拠にした「未来は決まっている」というのも、果たして揺るぎない法則なのでしょうか?

単行本1巻は3月8日に発売されたばかり。全知全能の神々と人類史上最強の英傑たちがガチバトルを繰り広げる『終末のワルキューレ』(コアミックス)を彷彿とさせる本作、青田買いするなら今です!

 

【漫画】『血戦のクオンタム ~量子世界の転生科学者~』第1話を試し読み!
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『血戦のクオンタム ~量子世界の転生科学者~』
原作・佐々木善章、作画・大地幹 講談社

キャベンディッシュ、ニュートン、アルキメデス、ノーベル、テスラ、シュレーディンガー、アインシュタイン……。「世界の法則」を見つけ出してきた科学者たちが、「災禍」溢れる「世界の転換点」産業革命時に能力者&美少女として転生! 科学を使った特殊能力で死闘開始!!