断絶していた夫婦の認識
愛佳さんは、剛さんに相談します。その様子をきいて、愛佳さん以上に衝撃を受けた様子だったという剛さん。おそらく優等生で、学校生活も人一倍頑張って成果を出してきたであろうお2人にとって、1人娘が早々に「不登校」になってしまったという事実は、大げさでなく一大事だったのでしょう。
愛佳さんは、なんとかしようと決心。築いた地域のママ友ネットワークを駆使し、不登校時の対処法や子どもに寄りそう方法について猛烈に勉強を始めます。
「とにかく、強引に行かせる、というような昔のセオリーは厳禁だと経験がある方々にアドバイスをもらいました。ひとまず無理強いはせず、私たちは子育て相談に行こうと夫に言うと、返ってきたのは衝撃の答え。
『だめだ! 一度休ませると味をしめて、行かなくていいんだと思ってしまう。絶対に行かせよう。問題行動は、精神的な病気かも……やっぱり家に問題があったんだ……学校には無理にでも行きながら、すぐに病院に行かないと……』
この時、私と夫は家庭の状況に対する認識が大きくずれていることに気づきました。話せば話すほど、どんどん意見の違いがあらわになります。気持ちを長い間通わせていなかったから、2人の間の意思疎通回路が働いていないと感じました」
結婚した頃は、むしろ価値観ぴったりと思っていたお2人。しかし結婚生活のイメージ元となる育った家庭は異なるうえに、考え方が少しずつ変わったり、思わぬ感情が出てきたりするものです。
じつは剛さんは愛佳さんと娘さんが自分を疎外していると考え、淋しさを募らせ、1人で休日の時間をつぶしていました。そのうちに、いろいろ諦めるようになったのだといいます。愛佳さんが見ていた景色とは、いつの間にか大きくずれてしまいました。
お子さんの問題を通して露呈した、夫婦の会話や意思疎通の少なさ。しかも6年の年季が入ったコミュニケーション不全は、果たしてどのように克服すればよいのでしょうか?
後編では、2人の間に溝を生んだ原因のひとつ「育った家庭環境の影響」と、もう手遅れかと思いながら起こした愛佳さんの行動、そして驚くべき夫婦の変化について伺います。
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
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