20代の頃は仕事に邁進していたご夫婦。出産以降は、自分のなかの理想の母像を実現すべく、子育てに向き合ったという妻の愛佳さん。しかし次第に世界が狭くなったように感じ、自由に見える夫への苛立ちを募らせます。

それは不健全だと思い、社会と関わる方法を模索した愛佳さん。ところがそれがうまくいくにつれ、今度は夫との関係性が薄くなっていきました。そんななかで、小学校に通い始めた子どもが不登校になり……?

 

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取材者プロフィール 愛佳さん(仮名):49歳、セミナー講師やアルバイトなど複数の仕事あり。娘は現在中学生。
剛さん(仮名): 50歳、専門商社に勤務。


     
 

いつの間にか見失ったゴール


「学校に行きたくなくなってしまった理由を娘に尋ねると『○○ちゃんに悪口を言われて、階段から突き落としたくなった……』など、哀しい、怖いことを私に訴えてきました。夫はなんとか学校に引きずっていこうと言いましたが、私は必死に止めました。まずは娘のケースで親が取るべき対処法を知りたいと考え、区に紹介していただいたカウンセラーのところに行ったんです」

内心では体裁を重んじているかのように見えた夫に苛立ち、プロの意見ならば聞いてくれるだろうと期待した愛佳さん。しかし何より、愛佳さん自身が「きっと母親である私の育て方に問題があったのだ」と自分を責めていて、誰かに相談したかったそう。

発達心理学に詳しいカウンセラーは、全ての状況を数回に分けてじっくり聞いたあとでこう言いました。

「お母さんにそれだけ胸の内を言うっていうのは、信頼関係があるからですよ。怖いようなことも、お母さんを信じてるから言ってるんです。聞く限りでは、お子さんに発達上の精神的な問題があるとは思いません。

もしかして寂しいのサインかもしれませんよ。小学校に上がるときに、無理に急に厳しくしませんでしたか? そんなに気負わなくても大丈夫。ゆったり、ゆったりですよ」

その言葉に、はっとしたという愛佳さん。

「私は、母から『小学生のうちは、子どもがだらしないのは親の責任。きちんと身の回りを整えることや社会のルールを教えてあげないと。最初が肝心よ』と言われたことを必要以上に重大に捉えていました。私の母は、本当にしっかり、完璧にサポートしてくれた記憶があって。私も娘をきちんとした子にしなくては、と気負っていました。

それ自体は悪いことじゃないと思います。でも私の場合は、目の前の娘じゃなくて遠くにいる母を見ていた。母の言葉と自分が作った幻影のほうを大事にして、娘自身のことを見てないことに気づいたんです」

愛佳さんは、お子さんが生まれてからというもの、生真面目に奮闘するあまり夫と協働するという意識が薄くなっていったと言います。それが次第に子育てにおいても、肩に力が入り、独りよがりな視点を肥大させる遠因になったのかもしれません。

「とにかく、夫婦関係と親子関係のどちらも、いつのまにかもつれていました。私は、まずはひとつずつ向き合おうと思いました。……でもそれは口でいうほど簡単ではありませんでした」