退職してしまえば、肩書きよりも生身の徳がよっぽど大事


一方では、役員の座をめぐる生々しいレースに前のめりで参戦して、ギラギラしている人たちもいます。顔を合わせれば人事の噂をヒソヒソ、ヒソヒソ。みんな好きだなあ、人事。何度聞いてもいまだに常務と専務のどちらが上なのか覚えられない私のような者からすると、もらった名刺を見ても社長以外は誰が上か下かなんてぜーんぜんわからない。それより会った感じで無礼な人だなとか親切な人だなとか、生身の徳が大事だわと思ってます。だって名刺なんて、数年で刷り直しじゃないの。退職後に残るのは肩書きではなくて、その人が働きながら身につけた態度と信用。肩書きなしでも、人に好かれて尊敬されるかどうかです。これは死ぬまでついてきます。それさえあれば、名刺を持たない人生もきっと楽しく生きていけるでしょう。

「肩書きをあんなに人と比べなくてもよかったのに」定年を見据える50代、会社を辞めた立場で感じること【小島慶子】_img0
写真:Shutterstock

私は会社員を15年間経験し、独立してから今年で13年目になります。外に出てみると、会社という世界はつくづく平家物語だなと思います。しかもサイクルが早いこと。

 


祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
娑羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす
驕れる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし
猛き者もつひにはほろびぬ ひとへに風の前の塵に同じ


異動の季節に胸がざわついたら、ぜひとも音読してください。
ちょっとご無沙汰していたら、あんなにブイブイ言わせていた人が異動になっている。数年前には出世頭と言われていた人が、気づけば定年退職している。私が変わり映えもなくあくせく働いている間に、会社員の知人たちは何度も違う部署に移り、立場が変わり、だけど毎月必ずお給料が振り込まれて、ボーナスもしっかりもらっています。自分が会社員だった時は、それがどんなに恵まれたことかを全然分かっていませんでした。そしてもっと時の流れが遅かったし、人の動きが遅いように感じたものです。けど外から眺めると、組織のポジションて本当にちょっと目を離した隙に次の人に入れ替わってしまうんですよね。その異動が何を意味するのかもよくわからない。もしも本人が左遷されたとか戦力外通告だと思っているなら、あなたはずっと変わらずあなたじゃん、肩書きなんて世間の人は大して興味ないよと心から言ってあげたいです。