時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会現象について小島慶子さんが取り上げます。
あなたにとって、ロイヤルファミリーは身近な存在ですか。気になるメンバーはいますか。誰のファッションが好きですか。ニュースサイトのロイヤルゴシップをつい読んでしまうこともあるでしょう。
英国王チャールズ3世の戴冠式の中継を見ながら、考えました。英国と日本ではずいぶん事情が異なるものの、20世紀のロイヤルファミリーって最初のリアリティショーだったんだなと。昨年96歳で亡くなった女王エリザベス2世の父・ジョージ6世の時代から、英王室はラジオやテレビなどマスメディアを戦略的に用いてきました。現在はインスタグラムなどSNSを巧みに使っています。日本では、今の上皇さまが皇太子だった時の美智子妃(現在の上皇后さま)とのご成婚ブーム(1958〜59年のミッチー・ブーム)以降、皇室ファミリーはテレビの中の存在として親しまれてきました。今上天皇陛下は、マスメディアを通じてまさに赤ちゃんの時から国民にその姿を見られ続けてきた初めての天皇です。
英国でも日本でも、昔からロイヤルファミリーのゴシップ報道は人気のコンテンツで、女性の服装は注目の的。美智子妃のファッションをお手本にしたり、キャサリン妃の着たワンピースがすぐに完売したりと、時代や国が違っても、人々の反応は同じです。王室や皇室の家庭内の問題も注目されます。リアリティショーのお騒がせファミリーやYouTuberやTikTokerなどのインフルエンサーが登場する遥か前から、ロイヤルファミリーの存在は大衆に娯楽的に消費されてきたと言えるでしょう。
ごく一部の熱烈な支持者以外の多くの人は、そのようなコンテンツ消費を通じてロイヤルファミリーに親しみを感じたり面白がったりする以外に、存在意義を感じることはほとんどなくなっているのではないでしょうか。だとすると、この先のロイヤルファミリーと大衆との関係はどのようなものになっていくのでしょう。英国では今、過去の帝国主義と植民地支配に対する批判が高まっています。日本の皇族とは異なり、莫大な個人資産を持つ英国王や皇太子。にもかかわらずこのほど巨額の公費を投入して戴冠式が行われたことに対し、抗議の声が上がっています。格差拡大やコロナ禍、物価高で家賃や食費を賄うのもままならない国民が大勢いるのに、こんな式典に税金を使うのはおかしい、どうしてもやりたいなら自腹でやれという理屈は説得力があります。若い世代では王室に興味がない、あるいはもういらないと考える人が多く、英連邦の一つであるオーストラリアでも君主制から共和制に移行するべきだという声が高まっています。だからこそ英王室はメディア戦略や膨大な数の慈善活動に注力し、王室への親近感と共感を高めようとしているのでしょう。パパラッチによる人権侵害を排しつつ「見て親しむロイヤル」としての存在感を維持するのは至難の業でもあります。
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