子どもの自立にとって親は“障害物”
そもそも反抗期は、親の考えや価値観が自分とは違うと気づくことから始まります。そのため、子どものためと思ってやってきたことも含めて親の考え方や生き方を否定してきます。「何のために苦労してここまで育ててきたんだ」と親なら誰もが嘆きたくなるでしょう。
でもね、子どもの自立にとって、親という存在はよくも悪くも“障害物”なんですよ。親を否定しているわけではなく、親と違う自分なりの価値観を見出したいだけなのです。
思春期は、自分がどんな人間なのか、何をしたいのか、アイデンティティを模索する時期です。自分のことがわからなくて混乱し、もがき苦しみ、悩みながら自我を確立していきます。それは親が手を出してはいけない領域です。
親子の距離は思春期のいちばんの発達課題。思春期になっても、小学生の頃と同じように親との距離が近いまま育った子は、成人しても自分のしたいことを思い切ってできなかったり、何かあったときに独りで立ち向かえず、心が折れやすいように思います。
もしかして、人目を気にして“いいお母さん”“いい子”を演じているところはないですか?
幼い頃の親密な関係を手放すのが淋しくて、物分りのいい親子になっていませんか?
そうだとしたら、互いにもう少し本音をぶつけてみてもいいと思います。あまりに居心地のいい家庭は、子どもの自立の妨げになるかもしれませんよ。
現状に満足せず、自分で考えて新しい生き方を模索する、思春期の子どもの自然な自己発達力を受け容れてください。親にありのままの自分を認めてもらえない子どもは、自分に自信が持てないまま、人生に問題を抱え苦しむことになるかもしれません。
親の支配から逃れて自我を模索し巣立とうとする子を、親はひとりの人間として見守る。親子が物理的にも精神的にも離れることで、子どもは自立していくことができるのです。
大下隆司(おおしも たかし)さん
1955年、鳥取県境港市生まれ、精神科医。代々木の森診療所院長。立命館大学卒業後、数学教師等を経て29歳で医学生となり、1991年神戸大学医学部卒業。神戸大学医学部付属病院、東京都立墨東病院、明石土山病院、東京女子医科大学勤務を経て2012年より現職。診療のかたわら、兵庫県中央児童相談所の思春期相談、神戸国際大学の学生相談、兵庫県学校サポートチームで中学生の相談、新宿区教育委員会特別支援教育巡回相談で発達障害の小学生の相談等、子どもに関わる仕事に注力し、現在も國學院大學の学生相談、NPO法人メンタルケア協議会の副理事長をつとめる。専門は、臨床精神薬理、心理教育、児童青年精神医学。認定資格等:精神保健指定医、精神科専門医、産業医、臨床心理士、公認心理師。
『思春期デコボコ相談室 母娘でラクになる30の処方箋』
著者:大下隆司 集英社 1760円(税込)
「すぐキレる」「過眠から不登校になった」「いじめの加害者になった」「マスクを外せない」など。現役の精神科医が、思春期の娘を持つ母親が抱えがちな悩みに答えつつ、「自己発達力」「自己治癒力」を引き出す育て方を教示します。脳のメカニズムや精神科の処方薬の情報を交えるなど医学知識をベースにしたアドバイスが満載で、子育て中でない人でも興味をかきたてられる内容になっています。
構成/さくま健太
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