平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。
第24話 嘘の理由
「お前たち~、もう21時だからな、友達待ってないでさっさと帰れよ! 入口で他のクラスの友達待ってるヤツ、だいたい不合格になるからな~」
「げー! 神山先生、やなこと言うねえ~!!」
ゲラゲラ笑いながら走って横断歩道を渡る生徒たち。中学受験生とはいえ、まだまだ小学生男子、中身は子どもだ。俺は前を見ろ~と言いながら手を振った。
俺が勤めている大手進学塾のこの校舎は、都心の一等地に位置している。周囲にはタワーマンションが並び、地下鉄の駅もいくつか使えてバス停もたくさんあり、アクセス抜群。勤めて10年になるが、こんな都会の校舎に配属されたのは初めてだ。
中学受験塾の夜は遅く、小学6年生の授業が終わるのは21時。当然親御さんは心配をして、終わる時間に塾まで迎えに来る人もいる。
その送迎が問題で、校舎の近くにはズラリとメルセデスやBMWが並ぶ。これが近隣タワーマンションの住民から総スカンを食らっていて、塾には苦情が入るから、こうして講師が子どもたちを見送りがてら目を光らせていた。
「先生、さよなら! 電車チームは大変だねえ、俺らは歩いて帰れるからラッキー!」
最上位クラスに在籍し、うちの校舎の四天王の1人、達也がポケットに手をつっこみながら飄々と歩いてきた。もぐもぐガムを噛んでいる。
「こら達也! ガム禁止だぞ。あとポケットに手を入れて歩くな、転んだら歯折るだろ」
「ハッハ~! だっさ、コケるかよ。先生心配しすぎ~。亮介、いこ! 先生、さいなら~」
達也は、傍らにいた「相棒」の、これまた四天王の1人亮介の肩を抱えると、そびえたつタワーマンションに向かって歩き出した。身長が頭一つ、達也のほうが高いから、親分と子分のようだ。
大人しい亮介は、こっちにちょこっと頭を下げると、達也に引きずられるように歩いていく。2人は校舎のすぐ近くにそびえたつ豪華タワーマンションの住人。同じ小学校で、2年生からずっとこの校舎に通っている。
「神山先生……あのこと、達也に詰めたんですか? 校舎長が今日訊けっていってたじゃないですか」
入り口で2人の後ろ姿を見送っていると、隣のクラスを担当している講師が非難がましい目で寄ってきた。
「ああー、分かってる……。大事な時期で、エース2人の合否を左右しかねないシビアな問題だからな。慎重にしないと。近々、ちゃんと呼び出すから」
俺は、今日1日気が重かった原因を思い出して、ひとつ溜息をついた。
夏の夜、都会の怖いシーンを覗いてみましょう…。
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