平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

第25話 過去からの招待状

 

「萌絵! わあ、久し振り……! 嘘でしょ、20年ぶり? 変わらないねえ、アラフォーとは思えない」

待ち合わせを5分過ぎて、背後から声をかけられる。振り向くと懐かしさに思わず顔がほころんだ。

「久美ってばそこでわざわざ歳言わなくていいって。同い年でしょ」

私はクスクス笑いながら、バルのカウンターで隣に友人を促す。久しぶりに会った中高の部活仲間の久美。ちょっと緊張していたけど、一気に時が戻る。

 

「萌絵、合唱部OG会ぜんぜん来ないんだもん。みんな会いたがってるんだよ」

「ごめんごめん。大学在学中に、父がドイツに駐在になって。ついていったら10年も居ついちゃったの。そこからみんなに連絡しそびれただけ」

オーダーしたスパークリングワインがシュワシュワと発砲音を奏でる。その音程を感じながら、私は答えた。

「のんびりしてるねえ、相変わらず。萌絵ったらSNSも全然やってないしさ、気配なさすぎ。私が古いメールアドレスに連絡しなかったら、このまま縁が切れちゃったかもよ!? 何はともあれ、鈴蘭女学院合唱部メゾソプラノ2トップ、再会に乾杯!」

「ニッチねえ……ま、いいね。乾杯!」

懐かしくはあったけれど、20年ぶりの再会。6年間毎日一緒に練習していたからお互いに性格はよくわかっているが、久し振りすぎてなんだかこそばゆい。

その気持ちは久美も同じだったのだろう。近況を話し始めたかと思えば、大袈裟に手をパチンと合わせると、さっそくバッグからごそごそとチラシを出した。

「私ね、音大出てから、音楽系出版社に勤めながらコミュニティセンターで歌の講師もしてるの。今度生徒さんたちと合唱団を立ち上げるんだけど、萌絵も入って、歌ってみない?」

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夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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