胸に刻んだ稲盛和夫さんの言葉


そして超一流の選手の集まりだからこそ、超一流でも試合に出ることができない選手も出ました。

栗山:いや、それは本当に気になっていました。でも、出してあげたいという情に引っ張られて、選手を替えることだけは絶対しちゃいけないと最初から思っていたんです。彼らはやっぱり超一流なんです。勝つために自分が出ないほうがいいのかもしれない、と思ってすらいる。

だから、僕は僕の使命を果たそうと思っていました。まさに稲盛さんが経営者としてそうだったわけですよね。本当の優しさというのは非情だと。

【侍J栗山英樹前監督】稲盛和夫さんに教わった「本当の優しさは非情」_img2
『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』
編著:稲盛ライブラリー+講談社「稲盛和夫プロジェクト」共同チーム(講談社)

「小善とは大悪に似たり」という稲盛さんの言葉は、ファイターズの監督時代の最後の3年間ずっと黒板に書いていたんですが、侍ジャパンでもこの思いは持っていました。

リーダーは時に非情にならないといけない。本当の愛情とは何か、考えないといけない。人に嫌われることを恐れてはいけない。そんな端的な言葉を稲盛さんは残されています。

WBCでも、選手の起用や采配にいろいろなことを思った人もいるでしょう。骨折の源田壮亮を残して、腰を痛めた栗林良吏は帰していたり。これも本当にいろいろ考えたんです。

ただ、本を読んで体に入っていたものというのは、無意識の中に出てくるものなので。
稲盛さんは、本当に常に本気なんですよ。本気とは何なのか。それを考えなければいけない立場でしたから。

 
 

試合に出られない選手が、どれだけ勝ちたいと思っているか


出ていない選手たちにはどう接していましたか。

栗山:練習のときはかなりフォローをしていましたし、動きも見ていたし、話もしに行きました。彼らが大人でした。自分が出られない悔しさより、チームが勝つために何ができるのかをみんなが考えてくれていた。

それこそ、出られない選手がどれだけ勝ちたいか、という思いがチームを勝たせるというのは、ファイターズ時代からわかっていましたから。ベンチにいる選手が背もたれにもたれて試合を見ているようなチームでは、やっぱり勝てないです。

一緒になって戦って、出ている以上に勝ちたいと思って応援する。準備をする。そういう空気を作るのは、我々の仕事でもあるんですけど、これは簡単ではない。大事であることはわかっていましたが、どうしてあのチームがそうなったのかはよくわからないです。

まぁでも、あのレベルの選手たちですから。自分たち一人ひとりが自然に気づいていたと思います。やれと言ったところで、自分からやろうとしなければ本物ではありませんので。
でも、出ている選手以上に、出ていない選手のことは、僕は気になっていました。

インタビュー第3回は6月22日公開予定です。

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『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』
編著:稲盛ライブラリー+講談社 「稲盛和夫プロジェクト」共同チーム
定価:本体2090円(税込)
講談社

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取材・文/上阪 徹
撮影/塚田亮平

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