準備だけで人生を終えたくはない。今からでも楽しまなきゃ損


──一田さんは自著『明るい方へ舵を切る練習』において「思いもかけない状況に陥って『傷つく』ことが、何より怖い」と書かれていましたね。さらに、そんな怖がり虫を撃退できたわけではないけど、「少しずつ明るい方へと舵を切る練習をしている最中」とも書かれていました。その練習を始めるきっかけはあったのですか?

これといって決定的な出来事はなくて、徐々にそのような考え方になっていきました。元々がかなりネガティブな性格なので、できるだけ物事を悪く考えないように頑張ろうと。そんな風に意識しながら練習に励んでいます。

──ちなみに、ネガティブ思考は脳の自己防衛本能で、人間は放っておくとネガティブな方向に考えてしまうらしいです。

そうなんですか! とは言っても、いつもあっけらかんとして前向きで、底抜けに明るい人っていますよね? そんな人に会うと、すごくうらやましくなります。

──ただ、元々ネガティブな性格を急に明るくするのは難しいですよね。だから、「明るい方へ舵を切る練習」をしながら徐々に明るくなっていこうと思われたのですか?

そうですね。このネガティブな性格をいつかは明るい方へひっくり返してやろうと思っていたのですが、50歳になって残りの人生を意識し出したら、「いつかは」なんて悠長なことを言っている場合ではないことに気づいたんです。今からでも日々を楽しまなければ損だな、と考えるようになりました。「いつかは人生を楽しんでやろう」と心の準備をしていたのに、結局、準備だけで人生を終えたくはないじゃないですか。それこそ、ショートケーキのイチゴを大切に残しておいて、最後は誰かに取られたみたいになっちゃう(笑)。

「楽しむ準備だけで人生を終えたくはない」一田憲子さんが50歳で始めた、明るい方へ舵を切る練習_img2
写真:Shutterstock


若い頃から思い描いていた「正解」は正解じゃなかった!?


──明るい老後を送るために、趣味やぜいたくをじっと我慢して貯蓄に励んでいる人などもそうかもしれません。老後が思い描いた通りにならなかったらどうするんだろうと、他人事ながら不安になります。

 

明るい老後といったって、いくら貯めたら実現するのか誰にもわからないですよね。結局、ゴールがわからない。若い頃は、これだけ頑張ったら良い結果がついてくる、といった感じで原因と結果が直結していると思っていたんですけど、50歳になって「どうやら違っていたらしい」と気づいたんです。私はフリーランスなので仕事が増えたら幸せだと思っていたのですが、増やした結果、嫌な仕事が増えて好きな仕事の割合が少なくなってしまった。若い頃から思い描いていた「正解」は、そうじゃないのかもしれないと考えるようになりました。

──価値観を根底から覆されそうですね。かといって新たな正解もわからなくて、路頭に迷ってしまいそうです。

そんな時は、考え方のスイッチを変えなくちゃいけないと思うんですよね。「お金があれば幸せになれる」から「お金を稼がなくても幸せになれる」にチェンジするとか。ちょうど50歳になって、人生の残り時間が少ないと思い始めてから、ちょっとずつ違う価値観へと切り替えるようにしました。今は60歳手前ですが、昔の価値観のままでいくと60歳になっても満足できないことがわかるんですよ。

──満足していないにしても、自己実現はできているという感覚はあるのですか?

若い頃よりはありますね。好きな文章を書いて、何とか食べていけている状態ですから。ある程度やりたいことをやってしまったという感覚はあります。その一方で「いつまで書けるんだろう?」と、その先を求めている自分もいますので、満足しきっているわけではないと思います。