「純」猥談って？性愛にまつわる見知らぬ人の秘めた体験談が、どうしてこんなにエモく心を揺さぶるのか

もう遠い昔のことなのに、時折思い出してしまう恋愛はありませんか？　また、「もしかしたら、あんな恋愛をしていたかもしれない」と、なりえなかったことを想像したことはないでしょうか？　人間、長く生きているといろんなことがあるものです。いつまでもきらきらと輝く、宝石のような思い出もあれば、若さゆえの苦々しい記憶もあるでしょう。また、親しい友人にも言えず、ずっと心に秘めていることもあるかもしれません。ヤンマガWeb『純猥談』は、性愛にまつわる誰かの体験談をコミカライズしたもの。短編映画のような一話完結の物語です。

インターネット上で集まった『純猥談』は、2万エピソード超え。

『純猥談』とは、佐伯ポインティさんが発起人となり、「誰もが登場人物になったかもしれない、誰かの性愛にまつわる体験談」を集めたもの。インターネット上で集められた投稿は2万を超え、書籍や短編映画などにもなっています。高校時代に初めて交際したカップル、大学サークルの先輩後輩、マッチングアプリで出会った男女、セックスレスの夫婦など、今を生きる人たちさまざまな関係性から生まれる実体験が集まり続けています。

2021年10月からは、投稿された体験談を原案に、ヤンマガWebで、田川とまた先生の作画による漫画連載がスタートしています。

記念すべき一話目のタイトルは、「いつか回り回って恋人に戻れたら幸せです。」。10年前の高校２年生の時に、初めての彼氏ができた女性の物語です。

放課後、ベンチに座って他愛もない話をしたこと。うれしくて保護した携帯のメール。友達に冷やかされながら合流した修学旅行。そのすべてが初めてのことばかりでした。でも、いつしか時間の経過とともに、出会った頃の浮かれっぷりが永遠に続くことはなく、少しずつすれ違うようになってしまうことがあります。この主人公も同じような道をたどることになります。そして、新たな出会いもあるのですが、彼女にとってこの高校時代の彼は思い出の中のまま。

本作のタイトル「いつか回り回って恋人に戻れたら幸せです。」は、彼女が彼に送った最後のメッセージだったのですが、もしも彼と再会することがあったとして、二人はまた恋人に戻れることはあるのでしょうか。

 

『猥談』なんだけど、『純』ってどういうこと？

『純猥談』に登場するエピソードはさまざまで、自分の人生とは全く異なる世界線を生きている人たちも登場します。それでも読後は、切なくて、甘酸っぱくて、苦しくて、温かくて、苦くて……、といろんな感情がないまぜになります。

中には、「いや〜、これはないわ」と感じるエピソードも、読み手によってはあるかもしれません。でもそれでもいいのです。同じこの世界に生きる、見知らぬ人の恋愛や性に共感することもあれば、そうでないこともあるのが当たり前。たとえ共感できなかったとしても、心に残る部分はどこかにあるものです。

『猥談』という単語を国語辞典で引いてみると、「性にかんするみだらな話」とあります。本作には、性愛の場面も登場します。そこになぜ「純」という言葉がついているのか。それは作品を読み進めていくと、きっと感じ取れるはず。肉欲に流されることもあれば、恋愛感情がなくても体を重ねてしまうこともあり、つながりたくてもつながれないことだってある。表面的には赤裸々な場面であっても、その深い部分にあるのは、登場人物たちの偽らざる、純度の高い心の機微。だからこそ、『純猥談』に心を揺さぶられ漫画、短編映画、文章など、形を変えて多くの人に届いているのだと思います。

本作はまた、一つひとつのタイトルもいいんですよ！　「一度寝ただけの女になりたくなかった」「４年経っても手を出してこない彼氏のことがけっこう好きだ。」「最後に、握手してバイバイしたい。」「僕の恋人は、今週いっぱいで彼女ではなくなる」「僕たちは結婚できない。それでも、」など、これだけでエモい。ハッピーエンドなものもあれば、そうでないものもあるのだけど、そこがまたリアリティが感じられます。単行本４巻は６月20日に発売されたばかりで、４つの素敵なエピソードが収録されています。

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