実は送料無料の表示をやめてしまうと、売上高が減少するという困った事態が発生するのです。もし、そうした状態で、一部の事業者だけが送料無料の表示を復活させると、その事業者がビジネスを総取りする結果となってしまいます。このため通販事業者側も、簡単には送料無料の表示改定に踏み切れません。

「2024年問題」抱える運送業界は悲鳴…それでも“送料無料”をやめられない原因は、私たち消費者にある_img0
写真:Shutterstock

当然のことですが、送料が無料ということはありえませんから、最終的には消費者が負担するのが筋と言えるでしょう。消費者も、配送にはお金がかかっている現実についてしっかりと認識する必要があると思います。しかしながら、実際に消費者が送料負担を受け入れるのは簡単なことではありません。なぜなら私たち消費者というのは、自身が考える以上に狡猾で自分勝手な存在だからです。

実は同じような話が身の回りにはたくさんあり、いずれのケースでも消費者の意識改革は実現できていません。例えばコンビニの24時間営業について考えてみましょう。

多くの人は「コンビニが24時間営業することについてどう思いますか?」と尋ねると、「無理に24間営業する必要はない」「省エネや労働者の負担を考え、深夜は休んだ方がよい」と答えます。しかし、そうしたタテマエの意見と現実の消費者の行動は著しく異なります。

小売店が24時間営業をやめてしまうと、消費者は何時まで営業しているのか確認する作業が必要となります。無意識的にその店を敬遠するようになり、売上高が大幅に落ちるのが現実なのです。

商品の配送についても同じことが言えます。コンビニなどで販売されている総菜類は、朝に新鮮な商品が並ぶよう、深夜に配送されます。こうした深夜配送が大きな社会的負担になっているという指摘は以前から出されており、この是非について消費者に問うと、ほとんどの人が、「そこまで無理する必要はない」「労働者の環境を考えるべきだ」と答えます。

しかし現実はまったく異なります。朝に新鮮なお惣菜が揃っていないと、お客さんはたちまちその店に行かなくなってしまい、売上高が激減してしまうのです。

つまり私たち消費者は、本音と建前を使い分ける、狡賢い存在であり、こうした消費者のスタンスが多くの過重労働を招く要因になっているのです。

一連の問題の背景には、私たち消費者の身勝手な振る舞いがあるという現実について、もっと自覚する必要があるでしょう。そして、こうしたホンネとタテマエの使い分けは、最終的には労働者の首を絞めるという形で自身にも返ってくる結果となります。

「2024年問題」抱える運送業界は悲鳴…それでも“送料無料”をやめられない原因は、私たち消費者にある_img1
 

前回記事「かつての日本で、企業と客の立場は今と「逆」だった。理不尽なカスハラが今後もなくならないと断言できる理由」はこちら>>

 
  • 1
  • 2