ある人を見て「素敵だな」という印象を受けるとき、私たちが見ているのは、顔の造作ではなく、表情だったりします。とくに笑顔は、その人の人柄が滲み出る特別なもの。今回は、「大人の笑顔」について、メイクアップアーティストの水野未和子さんと考えます。


魅力的な笑顔に顔のつくりは関係ない。
人の生き方が透ける大人の笑顔に惹かれます

美しい笑顔とは、「上手に笑ってみせる」ことではない。「人の心を動かす」ほど、自分を解放した生き方を見せること【水野未和子】_img0
 

メイクアップアーティスト 水野未和子
オレゴンに留学後、イギリスに渡り、London College of Fashionでメイクアップを学ぶ。卒業後、フリーランスのメイクアップアーティストとしてロンドンでキャリアをスタートし、帰国後は多くの雑誌や広告、CMなどを手がける。人によって違う、その人だけの魅力をディファイン(明確に)するメイクに定評があり、数々の女優やモデルが厚い信頼を寄せる。そのメソッドをまとめた著書『ディファインメイクで自分の顔を好きになる “私だけの魅力”が絶対見つかる自己肯定メソッド』が好評発売中。
【Instagram】@mizuno.miwako

昨年まで、私自身、仕事をしながら亡くなった母の介護を続けていたのですが、40代以降の私たちには、仕事や子育て、介護等、大変なことが一気に押し寄せることがあります。そうでなくても、人間関係や忙しさに追われて疲れてしまうことは多々ありますよね。でも、そんな経験を乗り越えてきた大人こそ、私は「笑顔」を大切にしてほしいと強く思うんです。

 

笑顔って、その人自身の延長線上にしかないもの。意地悪な人がいくら笑顔を作っても、やっぱり意地悪な顔つきになる(笑)。だから私たちは、自然体の笑顔に惹きつけられるんだと思います。結局笑うって日常のことだし、日々をどう生きているのかの象徴だと思うんですよね。さまざまな経験を乗り越えてきた大人の笑顔が魅力的なのは、その先に、その人の生き方や人としての深みを感じるからだと思います。

実は、笑顔はルッキズムからはほど遠いもの。世の中ではコロナ禍でマスクをつけていたことで笑い方を忘れてしまった人たち向けの「笑顔の講習会」が盛況だといいますが、笑顔って誰かに習うものでしょうか? 私は、「見る」よりも「感じる」ものだと思っています。「上手に綺麗に笑える」ことを習得しても、それは他人に対してどう見えるか……というだけの話で。笑顔ってそういうものではないのではないか−−。練習した笑顔で美しく笑っても人は何も引き込まれない。私にとってはフェイクの笑顔が一番苦手。とても相手を遠くに感じてしまいます。私たちが引き込まれるのは、誰かが美しく微笑んでいる外見ではなく、その奥に見える、その人の「生き方」の部分に他なりません。

先ほど母の話をしましたが、母が余命宣告を受けたときはさすがに私もつらく悲しくて、まったく笑えていませんでした。だけど、「私は幸せ」が口ぐせで、当たり前とも思えるようなことにいつも喜んで笑っていた母。その笑顔に私のほうが救われて、残りの日々をギフトだと思えるようになり、最期まで一緒に楽しく過ごせたんです。笑顔の力って本当にすごいと実感しました。一体どれくらいの人が、そう言って笑えるでしょうか。

顔のつくりや肌質は人によって違うけれど、「笑顔」はみんなに平等に与えられていて、年齢や性別さえ問わないもの。せっかくすでに持っている笑顔という美しさを生かせていないのだとしたら、それはもう自己責任なのかも、とさえ思います。

魅力的な笑顔とは、「心から笑えているか?」ということに尽きる。嫌なことで自分をいつまでも縛ったり、顔の造作や肌質の細かい部分に囚われたりするより、自らを解放できる力を持ったほうがいい。そんな日々を自ら選び取って生きること。それこそがその人だけの素敵な笑顔につながるんだと思います。私は、世の中の「美しい笑顔」を再定義したい。「笑顔」はルッキズムとは程遠いところにあると、大人はそろそろ知るべきだと思うんです。

 
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