「自分のことを考えてくれる大人」がいるか?

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――こうした状況を変えるために必要なのは、どんなことだとお考えですか。

 

小澤:子ども時代の体験はその後のウェルビーイングに影響することがわかっています。そのくらい人生を通して影響があることです。だからこそ、例えば、暴力を受けるといった逆境体験があった時、子どもがクライシス、すなわち危機的状況に陥らないように予防したり、緩和するような関わりや体験といった環境をできるだけ子どもたちの暮らしの中に増やしていくことが大切になります。その予防・緩和するような関係性や体験、環境を「保護因子」といいます。

20年以上前のアメリカの研究をきっかけに何度も行われている研究の一つに、子ども時代の逆境体験がその後にどのような影響を及ぼしたかという研究があります。逆境体験が積み重なっていくことが、大人になって数十年経った後も、その人の人生に影響を及ぼすというデータがあります。一方、親以外に自分のことを真剣に考えてくれる大人が少なくとも“2人”いた、養育環境の中で守られている・安全と感じることができている、といったことは、先ほどの逆境体験があったとしてもその影響からその人を守ったり、影響を緩和したりすると言われています。

例えば、「自分のことを真剣に考えてくれる大人」は、私たち一人ひとりの振る舞いや行動と、大人もそのような余裕や余白が持てる制度を含めた環境が必要です。制度だけがあればいいわけではなく、「大人たちは真剣に自分のことを考えてくれている」「自分はここにいて大丈夫な存在なんだ」「何かあっても大丈夫」。子どもたちがそんなふうに感じられるような、応答的なあたたかな関わりやまなざしが日常の中にあることが、とても重要になります。子どもを「社会を共にはぐくむパートナー」の一人として敬意をはらい、一人の権利の主体としてその声を大切にしながら、今ある場所、これから生まれる場所、地域が居場所感を感じるような場となっていくことを、私たち一人ひとりが目指すことが、子どもたちが孤立の予防には大切なことの一つではないかと思います。