インフレとデフレで変わる資産価値


冒頭でも紹介しましたが、家計にある現金=タンス預金は106兆8530億円という発表がされていて、その額を国民1人当たりに置き換えると86.6万円になります。「タンス預金なんて昔の人がすることでしょ?」と思われるかもしれませんが、実はその額は年々増え続けており、マイナンバーと銀行口座の紐付けに抵抗がある層の増加が一因とも考えられます。

晴子さんが心配している「タンス預金で損をするか得をするか」は、インフレとデフレに影響されます。インフレは物価の上昇、デフレは下降を意味しますが、その状況によって同じ100万円でも価値が変わってしまうのです。物価が上昇すると、モノを買うために必要なお金がより多く必要になりますよね? そのため、100万円という現金の価値が下がってしまうのです。

仮に年間2%物価が上昇すると、1年後には98%の98万円の価値に。逆に物価が2%下がるデフレになった場合、100万円の価値は102万円となって余裕が生まれます。

ただしこれは、タンス預金と銀行預金の損得の比較ではありません。タンス預金をし続けている場合と、貯め込むのをやめてそのお金を消費した場合の比較です。

銀行などに預金していれば、インフレ時には本来利息が上がります。ただし、今のご時世では利息アップはほぼ期待できないので、正直なところ、預貯金でもタンス預金でもあまり差はないかもしれません。

ですが、老後は定期的な収入が減少するので、物価上昇には敏感になる必要があります。現在の日本はインフレが定着し、預貯金だけに頼っていると資産が減少する時代に入りました。このままインフレが進むと、タンス預金はどんどん目減りする一方になるでしょう。

タンス預金のデメリット


相談者の晴子さんは、ご両親のタンス預金について心配されているようなので、まずデメリットから見ていきましょう。たとえば、家に置いておくことによる損失のリスク。家に現金があると、火災や盗難で失うリスクは当然あります。また、高齢者は強盗や振込詐欺のターゲットになりがちですが、タンス預金は安易にお金を渡せる環境を自ら作り出していることになります。預貯金であれば、通帳やカードを盗まれたとしても、引き出しを止めることは可能です。

また、高齢になると物忘れや認知症の発症によって保管場所を忘れてしまうことがあるかもしれません。金庫に入れているのであればまだしも、何かに紛れてこんでしまった場合、封筒などを誤って廃棄してしまう可能性も出てきます。「ゴミ収集場に多額の現金が捨てられていた」というニュースも他人ごとではありません。

晴子さんはお姉さんと共に親のタンス預金について把握していますが、場合によっては子のうちの1人だけが知り得ることもあります。タンス預金は、無断で持ち去っても「そんなものはない」と言われたら証拠を見つけにくくなり、相続で揉める可能性も出てきてしまいます。

【両親が2000万円をタンス預金】これって得?損? 2024年の新札発行でどうなる? プロが解説_img1
 


タンス預金のメリット


タンス預金にはもちろんメリットもあります。一番のメリットは、すぐに使える現金の状態で手元にあること。冠婚葬祭も含め、急に現金が必要になることもあるでしょう。手元に現金があれば、晴子さんの母親のように急な手術や入院に遭遇しても安心です。ある程度のお金を、タンス預金として管理しておくというのは正しい考えかもしれません。

また、銀行に預けていると、個人の貯蓄額は政府や金融機関が容易に把握できてしまいますが、タンス預金は他人(家族でも)が把握することは難しいため、秘匿性が保てます。個人情報の流出を警戒する方にとっては、タンス預金はベストな方法とも言えるでしょう。当然ですが、銀行の破綻やそれに付随する凍結にも影響を受けません。

【両親が2000万円をタンス預金】これって得?損? 2024年の新札発行でどうなる? プロが解説_img2
 


新札になったらタンス預金はどうなる!?


ところで、2024年から新紙幣が発行されることをご存知でしょうか。千円札は北里柴三郎、五千円札は津田梅子、一万円札は渋沢栄一になりますが、タンス預金をしていると預金封鎖や新札発行によって、お金の価値がなくなるのでは……と不安になる方もいるかもしれません。

結論から言うと、新紙幣の発行以降も古い紙幣は変わらず使用できるので慌てる必要はありません。今から120年以上前に発行された1円札でさえ、現在も使用可能です。

ただし、旧札を大量に保管することが不安な場合は、新札に交換する必要があります。新札への交換は、日本銀行の本店とすべての支店で手数料無料で行っていますが、皆さんが普段利用する銀行では交換手数料がかかったり、大量の旧札を持ち込む場合は事前に銀行に連絡をしないと交換が難しいケースがほとんど(基準は200万円以上)。窓口やATMで地道に新札に換えることもできますが、かなりの手間がかかります。

【タンス預金の旧札を新札に交換する方法】・銀行の窓口で交換
・両替機で交換
・一度入金して再度引き出す

旧札は、実際に使用する際に困ることがあるかもしれないので、できれば新札に交換しておいた方が無難です。なお、前回の新札への切り替えは2004年で、次回は2044年を予定しています。

すぐに銀行に行けない地域では、晴子さんのように100万円ほどの現金であれば生活費として置いているご家庭も多いと思います。タンス預金自体は違法ではありませんが、そのタンス預金を相続税の申告時に入れず、財産を隠すことは違法なのでここだけは注意してください。


構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
イラスト/Sumi
編集/佐野倫子

 

 

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