「女がこんなこと言っている」と批判され、過剰な配慮をさせられてはいないか
私は「わたくし」も使うし「俺か?」って言う時もある。「よね」「だわ」は日常的に使ってる。「知らねえよ」とも言えば「素敵だわ」とも言うし、「ちげーよ」も「そうよね」も言う。アナウンサーみたいな聞き取りやすくて行儀のいい日本語も話すし、パソコンの調子が悪い時には「クソPC!」と罵ることもある。蛇はビーヘーで、蛭はルーヒー。どれも私の日常の言葉づかい。
あなたも、きっといろんな言葉を持っているでしょう。人さまには決して聞かせられないパンチの効いた発言を脳内で繰り出していることもあるはずです。荒ぶる思いを鎮めるには、それを封じるだけの力を持った言葉が必要な時もありますから。
言葉を使いこなすには、さまざまな表現の中から状況に相応しい言葉を的確に選んで使い分ける能力が必要です。言葉は遣わすものでもあるので、他者との関わりの中での微妙な調整も必要ですね。ああしかし、その選択や調整を行うときに、己を縛っているものにどこまで自覚的でいられるか。
平野さんの言葉で、うおおお痛いところを突かれた、という名言があります。
私たち女にとって大事なのは、明確な意思表示をすることであり、そのためには過剰な配慮をした曖昧な「女らしい言い回し」をやめるべきだというのが、わたしの一貫した考えです。
呻きながら、流れ出た血で真っ赤な傍線を引きましたよ。平野さんは、今や生活の中では廃れつつある「女ことば」そのものよりも、女性が「女らしい言い回し」を強いられていることを自覚し警戒せよと示します。日本のような女ことばのないドイツ語や英語を話す社会でも、女性は女らしい言い回しをしないと受け入れられないことは共通していると。
今現在ワールドツアーとニューアルバムで問答無用の大成功を収めているあのテイラー・スウィフトも、The Manという曲で「もしも私が男だったらもっとガサツで身勝手でも非難されなかっただろうし、むしろ誉めそやされてもっと早く成功できただろうよ」という悔しい思いを歌っています。特殊メイクでオラオラな男性を演じた動画が話題になりましたね。毎度赤べこ状態で聴く曲ですが、才能あふれるテイラーでさえもそうなのかと、むしろ絶望的な気持ちにもさせられます。
このエッセイは、数日にわたって何度も言葉を打ち直し、書いては読み、消しては書きを繰り返しているのですが、いつも思うのです。もしも私のペンネームが「小島慶行」で、見た目が中年男性だったら、これもっと早く書き上げられるんじゃないかな、って。推敲の根っこには「女がこれを言うのだから一工夫しとかなきゃな」という強い防衛本能が働いています。みなさまのご機嫌を損ねないように、行儀悪くならないように、生意気に聞こえないように。柔らかく、ぼかして、言い切らない。いやお前の文章のどこがだよと思った人もいれば、だよねと頷いた人もいるでしょう。私の中には「女がこんなこと言っている」と批判する粘着質の読者が住み着いており、絶えずその読者の顔色を窺いながら書いているのです。カメラやマイクの前で物を言うときも同じ。断じてお前のご機嫌なんかとらねえよと意を決して発言しても、やっぱり気にしているのです。
あの田嶋陽子さんも、かつてテレビで無礼な男性たちとバンバン言い合った後、いつも帰宅してから胃が痛くてご飯が食べられなかったそうです。それ聞いて私思わず「かわいそうに、辛かったよね」と生放送中に田嶋さんを抱きしめたくなりました。目の前でトーンポリシング(言ってることは正しいけどさ、ものには言い方があるよね的な説教調の口封じ)を試みるおじさんに今も光速で言い返す田嶋さんの姿に、まじで胸熱で泣きそうでしたよ。全力で加勢しましたとも。
たとえ古風な女ことばを使わなくても、ふわっとした好感度高めの女らしい言い回しをしなくても、つい自虐や露悪やキレ芸や笑いをとる言い回しなんかで、結局は少しでも女が物を言う際の摩擦を回避しようとする本能が働いてしまう。そういうことに凄まじい量のエナジーと時間を消費しなくてはならないことにうんざりだよ!! とときどき心底思うわけですよ。これなんか、4700字よ? 長すぎてもう20人くらいしか読んでないよね。でも想い溢れて7000字以上も書いたのよ私。この社会で半世紀以上も女をやってきてよく生き延びた、頑張ったと、全力で自分を抱きしめたわ。51歳の誕生日の深夜にね。
『女ことばってなんなのかしら?』、「だわ・のよ」じゃないあなたにもおすすめです。
※初掲時、記事中の名称に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
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