「打率」は未知数。上司の判断基準が正しいとは限らない


理詰めでダメな理由を潰していくより、作り手の「とにかくこれは面白い!」っていう感覚を大事にするほうが、結局いいものが生まれたりするものです。

佐野さんの「とりあえず何かダメ出ししてくる上司問題」を聞いた林さんは、「上司に成績表をつける」ことを提案。林さんは、「常々ズルいと思ってるんです。ジャッジする方々って、安全圏からずいぶん勝手なこと言うなと」と吐露。

「とても見切れる量じゃない」コンテンツが溢れている。『エルピス』佐野亜裕美さんの言葉から考えた、「量産と質」へのジレンマ_img0
 

何にGOサインを出して、何にNG出したのか。GOを出した作品の打率はどうだったのか。林さんは“デスノート的”にその観察をし、上司の打率について見ているといいます。

確かに多くの企業では、上司が企画に口を出すも「言いっぱなし」のことが少なくありません。上下関係とはいえ、クリエイティブの世界では特に「打率」を予測することは困難。上司が絶対的な判断基準になるとは限りません。各界を代表するトップランナーも、日々上司との攻防を繰り広げていることがよくわかりました。

 

限られた制作費と量産が招くのは「質の低下」


さらに、マネタイズの難しさの話では、筆者自身も身につまされるものを感じました。林さんが携わる「漫画」においては、作品自体に課金されますが、佐野さんと石井さんが手掛ける「テレビ」や「ラジオ」、加えて「ウェブメディア」は、コンテンツは基本的に無償提供であり、広告収入で賄うというビジネスモデルです。

佐野さんはテレビ作品について、「質の高い映像を提供する」ことで、海外などでの配信で収益を上げることが大事だと言います。しかし現状では、そもそも国内放映時点の収益が減少しているにもかかわらず、全体本数は増え、制作費は減り、結果、ひとつの作品にかけられる制作費も減り続けていると指摘します。