「意味」や「答え」を探してばかりいる人生はつらい
――手塚さんが40代の今は、どんな本や映画に触れていますか。
手塚 そういえばこの前、エリック・ロメール監督の『レネットとミラベル/四つの冒険』というオムニバス映画を観たんです。私は退屈なことが好き、“退屈で退屈でどうしよう”って飽きるくらいまで退屈なことをしていたい……、そんなようなことを主人公の女の子が言うんですけど。それって幸せな感覚だなと思ったんですよね。何か意味を探したり、何か答えを探したり、いつも問答に囚われている人生ってすごくつらいし苦しいよなと。
――退屈さって、現代人が敬遠してしまうものの一つかもしれませんね。
手塚 この作品では、田舎に暮らす女の子のもとに都会の子が訪ねてくるんです。都会の子は「ここは静かで音が全然しない」って言うんですけど、それは“都会的な音”がしないだけ。鳥や猫や虫の声、風の音ですごく賑やかだよ、と田舎の子が教えるんです。そして、夜から朝に変わる1分間だけ現れる「青の時間」が好きだと。夜鳴いていた子たちが眠りに落ち、夜寝てた子たちが起きてくる。営みが入れ替わる「青の時間」は何もなくなるんだと。そうして、二人はわざわざ明け方に起きて、「青の時間」を確かめに行くんですね。
「呪いの魔法」を解くヒントは、説明できない「自然や芸術」にある
――うまく言えないですが、すごくみずみずしさを感じます。
手塚 そうなんです。「青の時間」のような素晴らしさって、あまり言葉で説明できない気がするんですよね。でも、それが本当の豊かさじゃないですか。僕は小さい子どもがいるんですけど、花が咲いてるけどなんの花かなって一緒に図鑑を調べたり。この前まで咲いてたのに枯れちゃったね、アリが歩いてるね、あの鳥はどんな鳥かな、そんなやりとりをするんです。これも、うまく説明はできないけれど、めちゃくちゃ豊かな時間だと思ってるんです。
――言葉にできるものばかりが幸せではないと。
手塚 陥りやすいのは、自分が誰かよりも優越的な立場であることが幸せだと思ってしまうこと。それはただの勘違いだし、間違った価値観だけど、その人は別に悪くないんですよ。世の中からそういう価値観を植えつけられてきただけで、ある種の「呪いの魔法」にかかっている状態だから。それでも、自分で呪いの魔法を解きたいと思っているなら、「青の時間」のような美しさを感じ取ることが大事なんじゃないですかね。
――幸せを人と比べることが「呪いの魔法」というのは、たしかにそうかもしれません。
手塚 例えば40代以上の女性なら仕事やキャリアに関係なく、これまで美しい景色をたくさん見てきていると思うんです。もし、そんな景色を一つも思い出せないというのなら、今からでも花や生き物に目を凝らしてみたらいいんじゃないですかね。幸せに下駄をはかせる必要はない。自然界や芸術には、そう思えるヒントがあふれていると僕は思いますけどね。
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撮影/塚田亮平
取材・文/金澤英恵
構成/山崎 恵
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