「お母さんの選択=子どもの思い」


妊娠中は真斗くんの正確な症状はわかりませんでしたが、産後、「二型コラーゲン異常症」であることが判明。一般的に「小人症」と言われている症状の重度のものだと告げられました。

「日本にはほぼ症例のない、500万人に1人の難病だそうです。先天性の骨の異常で、原因はわかりません。頭以外の骨がほとんど育たないため、様々な症状を引き起こします。措置はしてもらったものの、産後の息子の状況は悪化していきました。特に深刻だったのは呼吸で、さらなる延命措置として『気管切開』を提案されました」

ここで知里さんは、再び選択を迫られました。気管切開で真斗くんの呼吸が安定する可能性はあっても、感染や声が出なくなるなどのリスクもあります。また、やはり真斗くん自身がそれを望んでいるのか? 助けたいと思うのは親のエゴではないか? と、複雑な思いが交錯したそうです。

「そんな中、先生から『お母さんの選択=真斗くんの思いですよ』と背中を押され、手術をすることに決めました。他にも脱腸ヘルニアの手術、栄養を確実に届けるために胃ろうも作ることになり、生後1カ月で3つの手術をしました」

妊娠中に赤ちゃんの重度障害が判明。「延命措置は親のエゴ...?」決断を迫られた母の選択_img0
 

生後1カ月の我が子にそれほどの手術を決断するのは、親としてどれだけ勇気のいることでしょうか。知里さんの祈りも届いたのか、真斗くんの手術は無事成功。それでもしばらくは入院する必要がありましたが、知里さんは日々病院に母乳を送り届け、生後8カ月で真斗くんは退院できることになりました。

 

「もちろん退院は嬉しかったですが、そこからは自宅で子育てというよりも医療介護の日々が始まりました。息子の身体についている様々な医療器具の管理をすべて私がする必要があります。異常がある場合はすぐに気づかなければ命に関わるので、3年間くらいはどこにも行けなかったのは当然、2時間以上連続で睡眠をとれたこともありません」

想像するしかできませんが、0歳児のお世話といえば健常児でも大変です。それを、日々命と向き合いながら知識と体力も要する医療ケアまで行うのは、心身が削られる思いだと感じます。

「あの頃は本当にしんどかったです。両親は遠くに住んでいて、仕事もしているので手伝ってもらうこともできず、シッターさんはリスクが大き過ぎてもちろん断られてしまいます。協力者がいませんでした。NICUの病床の問題で、再入院する選択肢もありません。

私は専業主婦としてほとんど息子につきっきりで、夫に頼んで1時間もスーパーに買い物に出られれば大成功、という感じで……1年以上は美容院に髪を切りに行く余裕もありませんでしたね。崖っぷちの日々でした」

個人的には、「母性ゆえに女性は我が子のためなら何でもできる」「全身全霊で子供に尽くすことができる」というようなコメントはあまりしたくありません。そうした母性神話により必要以上に母親が無理をして、結果母子共に辛い思いをする例も多く聞くことがあり、私自身もそのような期待に応えるのを負担に感じることが子育てをする中で何度もあったからです。

けれど知里さんの話を伺っていると、過酷な状況で彼女を突き動かしているものは真斗くんへの強い愛情以外の何物でもないと痛感せざるを得ません。冒頭で知里さんご自身が話していた通り、二人の絆は特別なもので、人として母親として、知里さんが短期間で強く成長していることが伝わりました。

しかしながら、そんなふうに知里さんが24時間体制で我が子の命に向き合う中、なんと夫の浮気が発覚するのです……。

来週公開の記事では、知里さんが離婚に踏み切り、真斗くんと二人で上京、保育園に預けて仕事を始めるまでの経緯をお話しいただきます。
 

写真/Shutterstock
取材・文・構成/山本理沙
 

 

妊娠中に赤ちゃんの重度障害が判明。「延命措置は親のエゴ...?」決断を迫られた母の選択_img1
 

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