日常もお仕事も、大事なことは周りにどんな人がいるかだと思う


実は藤竜也さんと似たタイプなのでは? と思わせるのが、脚本も手掛けた三原光尋監督。「演出も、たたずまいも、口調も、こんなに丁寧な監督は初めて」と麻生さん。その監督が、コロナ禍で人と人の繋がりが絶たれていた最中に書き上げたという脚本は、
「コミュニティの中で誰かとつながりながら生きる人々の日常」を描いたもの。高野豆腐店の父娘が常に、仲のいいご近所さんの優しくも愛しい「わちゃわちゃ」の中にいます。

麻生:私、 ご近所付き合いすごい好きなんですよ。田舎に住んでいた子供の頃はもちろんですが、都内に住んでいる今も両隣の方と仲良く行き来しています。始まりは引っ越しの挨拶に行ったこと。そもそも私は人と話すのが好きなので、顔を合わせれば普通にお話しますし、お互いに旅行に行ったらお土産を買ってきたり、ご飯にいったり、一緒にキャンプに行ったり。同じ幼稚園に通っている子供がいる方もいて、子供が何かの事情で家に入れない時に、うちに入れてあげたり、その逆でお世話になったり。そういう繋がりがあると、本当に安心するし、ホッとします。

「一生そばにいたい人」麻生久美子が大事にしたい、恋愛とは違う感情で繋がる人間関係_img3

 

映画の中で、辰雄を中心にしたご近所仲間が盛り上がるのは、実は麻生さん演じる春の再婚相手探し。娘が大好きな頑固おやじ・辰雄のお眼鏡にかなう男は、はたして見つかるのか? というのは物語の焦点のひとつではありますが、実はその辰雄にも新たな出会いが訪れます。それが病院で知り合ったーー実はある事情を抱えたーー快活な老婦人・ふみえです。

麻生:人生で大事なことってやっぱり、周りにどんな人がいるかだと思うんです。この映画に描かれる人と人の支え合いみたいなものはすごくいいなと思いました。辰雄も春も、春の亡くなったお母さんも、様々な事情を抱えながらどうにか生きていくために支えあってきたわけですよね。特にお父さんのふみえさんに対する思いは、この先を支え合って安らかに生きていきたいみたいなところだと思うし。そういう相手、パートナーのような人が見つかれば、人間って人生を楽しく、穏やかに、安心して生きていけるんだろうなって。いわゆる恋愛も大事だけれど、“一生そばにいたい人”って考えると、一時の恋愛の盛り上がりだけで「一緒にいたい」というのとは違う感情で、やっぱり一緒にいて安心できる、楽しくいられる人を選ぶのかなと。

 

インタビュー中も途切れなく、まるできれいな鈴みたいに、ころころと笑う麻生さん。この笑顔はデビュー当時からずっと変わらないトレードマークにも思えますが、実は「すごい不安症なんです」。「もしこうなったらどうしよう」とすぐ思ってしまうタイプなのだとか。

麻生:だから、日常の中で、自分が楽になれる方法、ネガティブになったときにポジティブに考える方法は、いくつか意識しています。例えば「体調が悪い時は、全て気圧のせいにする」とか(笑)。今、健康であることとか、生きてることとか、 そういうことにフォーカスすると、結構いいんですよ。今こうして毎日平穏に生きていられることは、決して当たり前のことじゃないというところに意識を持っていくと、 幸せだなって思えるんです。もちろんそういうレベルを超えた悩みの時もありますが、最終的にはそこに行き着くんですよね。子供のことだってーーもちろん「かーーー!」ってなるときもありますけど、元気でいてくれるだけで十分と思えば、多少のことにも目をつぶれる(笑)。

今はふたりの子育てで忙しい毎日を送っている麻生さん。仕事はどうしてもペースダウンしてしまいがちですが、先のことはそれほど考えていないのだとか。「女優を続けているかどうかわからないし」というつぶやきに、「え?!」と反応すると、「でも大好きな仕事だし、いくつになっても続けられるから」と続けます。

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麻生:最近はお母さん役が多いんですけれど、警察の偉い人だったり、吸血鬼だったりで、“ただのお母さん”という役が意外とないんですよ。だから、変な言い方ですけど、ただのお母さんとかやってみたいなって。でもお仕事を選ぶときに、実は脚本を読まずに引き受けることも多いんです。私にとっては「この方とお仕事したい」というのが一番大事で。今の自分って、そういう人との繋がりでできているんだな、ありがたいなって思います。

INFORMATION>
『高野豆腐店の春』
©2023「高野豆腐店の春」製作委員会


配給 :東京テアトル
公開日 :8月18日(金) シネ・リーブル池袋、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開!

藤 竜也 麻生久美子 中村久美
監督・脚本 三原光尋
徳井優 山田雅人 日向丈 竹内都子 菅原大吉 / 桂やまと 黒河内りく 小林且弥 赤間麻里子 宮坂ひろし

 

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尾道の風情ある下町。その一角に店を構える高野豆腐店。父の辰雄(藤竜也)と娘の春 (麻生久美子)は、毎日、陽が昇る前に工場に入り、こだわりの大豆からおいしい豆腐を 二人三脚で作っている。ある日、もともと患っている心臓の具合が良くないことを医師に告げられた辰雄は、出戻りの一人娘・春のことを心配して、昔ながらの仲間たち──理髪店の繁(徳井優)、定食屋の一歩(菅原大吉)、タクシー運転手の健介(山田雅人)、英語講師の寛太(日向丈)に協力してもらい、春の再婚相手を探すため、本人には内緒でお見合い作戦を企てる 。辰雄たちが選んだイタリアンシェフ(小林且弥)と食事をすることになり、作戦は成功したようにみえたが、実は、春には交際している人がすでにいた。相手は、高野豆腐店の納品先、駅ナカのスーパーで働く道夫(桂やまと)だった。納得のいかない辰雄は春と口論になり、春は家を出ていってしまう。そんななか、とある偶然が重なり言葉をかわすようになった、スーパーの清掃員として働くふみえ(中村久美)が、高野豆腐店を訪ねてくる。豆腐を作る日々のなか訪れた、父と娘それぞれにとっての新しい出会いの先にあるものは──。

撮影/榊原裕一
ヘア&メイク/ナライユミ
スタイリスト/井阪恵(dynamic)
取材・文/渥美志保
構成/坂口彩

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