「自分を守る」ことが大事


「数ヵ月は寝たきりの生活をすることになりましたが、この間に学ぶこともありました。ひたすら頑張れば物事は何とかなってしまうことが多いけど、でも無理をするのは結局続かない。長期的に考えれば、きちんと自分を守ることも大事だとわかりました」

思うように身体を動かすこともできず、1人で真斗くんを育てなければならない生活は大変ですし、不安や焦りも感じたはず。だからこそ、そんな中で知里さんが学んだ「自分を守る」という術は本当に大切なのだと思います。

「一応、助成金や養育費があるので、何もしなくても食べていくことはできる状態でした。でもそれだけでは何だかんだ貯金は減っていくし、やっぱり私は何かに頼るだけでなく、自立したいという気持ちがありました。そんなとき、知人からヘルスケアの事業を手伝ってみないか、と声をかけてもらったんです」

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きちんと休むことで実際に心身が回復していた知里さんは、仕事の話を受けることにしました。また彼女はこれまでほとんど看護師のような日々を送り、健康に関しては人一倍知識も経験も豊富。この仕事では、その経験を存分に活かすことができました。

 

「健康に関わる仕事がシンプルに好きで楽しかったし、たぶん向いていたんだと思います。人間関係にも恵まれ環境もよかったおかげで、仕事で成果を出せている実感がありました」

自営業やフリーランスの方からよく聞く言葉ですが、「向いていない」仕事はどんなに必死に頑張ってもなかなかうまくいかないけれど、「向いている」仕事はさほど力まなくてもトントン拍子にうまくいき、収入も後からついてくると言います。

知里さんもこの仕事が向いていたそうで、コツコツと働くうち、経済面は徐々に安定していきました。

しかしながら今度は、真斗くんの容体が急変したのです。

「息子は東京に越してきてから、かなり状態も良く元気でした。私の仕事も順調で、ようやく生活基盤が安定したと思っていたとき……ある朝突然、息子が口から泡を吹いて意識を失っていたんです」

知里さんはすぐに救急車を呼びましたが、その間数分ほど、真斗くんは心肺停止状態に。その影響で脳に後遺症が残り、たびたび癲癇(てんかん)が起きるため薬で抑える必要があり、すでに1年ほど入院をしています。

「脳の後遺症は現時点では回復の方法はなく、現状維持しかできないと言われています。でも、息子のような障害児を救急で受け入れてくれる病院はものすごく限られているので、東京でなければ助かる可能性は低かったはず。命が助かり、入院できる病院があるのはすごくありがたいです」