高次脳機能障害の専門外来を開設


その出来事がきっかけで就労や社会参加の支援というのが必要だと思って、制度や社会資源について学び、周りのスタッフにも声をかけて高次脳機能障害の患者さんの相談に乗るようになりました。高次脳機能障害を持って社会復帰するには、まず医療機関で詳しい症状の診断をうけることが、福祉制度の支援を受けるためのパスポートになります。障害者手帳は更新の診断が必要なので、生涯にわたり診療の継続が必要な場合が多いです。そういう診療が当院で行えるよう、理事長である脳外科医師に高次脳機能障害の家族会や福祉施設の研修会に参加してもらい、高次脳機能障害を持つ人の実情を知ってもらいました。そして2014年には高次脳機能障害専門の外来を開設し、診断が受けられずに困っている患者さんが相談できるようになりました。事故や病気から数十年間経っている方が、遠方から受診し、高次脳機能障害の診断を受け、障害者手帳や障害年金による支援に結び付く場合も多いです。

高次脳機能障害を持つ患者さんの就労や復職の支援では、企業にお邪魔して、病状を説明したり、障害があっても仕事が継続できるような工夫を提案させていただくこともあります。そんな中で、自分の病院もいち事業所として、障害者雇用がきちんと出来ているのかすごく気になって調べたら、十分ではなかったんです。私は障害が専門で、企業の実情を知る機会もあり、病気や障害に配慮した雇用管理についてもキャリアコンサルタントや職場適応援助者の研修などで学んでいました。それで、自身の職場である医療法人においても、障害者とともに働く体制を作りたいと提案し、2017年より障害者雇用推進担当も兼務させてもらうことになりました。障害者雇用担当としては、身体、精神、知的、発達と様々な障害を持つ方の働く場を病院内に開拓し、戦力となってもらえるよう支援しています。

ーー田中さんのご担当は脳損傷による高次脳機能障害だそうですが、脳の障害を持った方の場合、その後の日常生活や仕事上での壁はどんなものがありますか?

田中:脳は考えたり理解したり自分自身をコントロールする臓器です。そこが損傷すると、自分の状況を理解したり、会社と復職交渉する力そのものがダメージをうけるので、理解や意思決定そのものに非常に丁寧な支援がいるんです。目に見えにくい障害、脳損傷に起因する認知障害全般を「高次脳機能障害」と言いますが、高次脳機能障害は損傷の範囲や部位によっては、多彩な症状が出ます。同じ脳出血でも全く障害が出ない人と、すごく多彩な障害が出る人がいます。