中に入ってしまえば「女性が輝く世界」に見えるのだけど


世界一有名な「女の子の夢の世界」は、実のところ、巨大なおもちゃ会社の社長の妄想世界なのでした。「男が支配する男の世界」の王様です。彼は自分を、女の子の夢を叶える(ことによって莫大な富を生み出す)神様だと信じています。男には興味ないので、適当に筋トレさせて海辺に転がしておく。女の子は何にでもなれます。何にでもって、もちろん世界観の邪魔にならない限りは何にでもってことですけどね。人形世界の創造主は、そのように女の子の楽園をお作りになったのです。

「映画『バービー(Barbie)』のBは仏教のB!」女も男もない、我が身を生きるつらさと安らぎ【小島慶子】_img0
写真:Shutterstock

こういう例は他にもありまして、実際に体験できる場所が日本にもありますよ。あるおじさんの頭の中にどっぷり浸かれる世界が。そこでは、お金を落とすお客さん以外は、おじさんの頭の中にある“子どもの楽園”の生き物しか存在できません。自然の摂理を持ち込む生命体は、フジツボ一匹たりとも入れないんです。たぶん上空を飛ぶハトですらも、従業員じゃないかしら。

 

まあそれはともかく、バービーたちが愉快に暮らすバービーランドも、妄想力と商才に長けた誰かの脳内世界です。中に入ってしまえば「女の子の、女の子による、女の子ための世界」に見えるんですけどね。住人たちもそれを信じています。

あれ? 今もなんだか、そんなニュースがありますよね。新閣僚には「女性ならではの感性や共感力を期待」するって、首相が語っていました。それはあなたの妄想の中の「女性」ですよ。永田町と霞ヶ関と大手町の高い地位を占める大多数のおじさんたちは、生身の女は全員違うってことに気づいているでしょうか。ただ性別が同じというだけで、ひとまとめにしちゃいかんですよ。「女性ならでは」って何でしょう。私は女ですが、女性の話に全然ピンとこないこともあれば、あるある話で男性と盛り上がることもありますよ。

人の脳みその違いは、性差よりも個体差の方がはるかに大きいというのが今では科学的な常識です。男脳・女脳という区分けは非科学的であり、それを主張するのはニューロセクシズムという性差別とみなされます。「女性ならではの感性」って言葉自体が、偏見丸出しなのですよ。おじさんの頭の中にしかない「女性が輝く世界」という妄想なんです。しかし、そこの住人になった女性は、自分が誰かの妄想の中にいることに気づきにくい。だから「もう女性差別はない。私たちは自由だ」って言っちゃいがちです。あなた、男ムラのおじさんの脳みそに閉じ込められてますよ。外の世界に戻ってきて!

女性の気持ちは同じ女性にしかわからないはずだというけれど、体が違いますからね。生理痛だって他人のものは経験できません。自分の体しか知らないんです。男性もそうでしょう? 40億人の男性のうちたった一つの体を生きるあなたが知っている男は、一つだけ。いかなるジェンダーでも、人は誰しも我が身というサンプル1の世界しか生きられないんです。