時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会現象について小島慶子さんが取り上げます。

先日、ジムの見学に行ってきました。体幹を鍛えたくて。更年期以降は女性ホルモンの影響が減少するので、筋トレの効果が出やすくなるともいうではないですか。それに心肺機能も強化したい。実は今年、夜中に修験者と一緒に山の中を歩き回るという面白そうなツアーに参加しようと思ったのだけど「体力に自信のない人はご遠慮ください」とあり、怯んでやめてしまったのです。深夜の山中ではぐれたら嫌だし。でもいつかは参加したい。そこで、いっちょ良さげなジムにでも行ってみるかと見学を申し込んでみました。

 

そしたらマシンの説明をしてくれた20〜30代と思しきトレーナーさんが「このトレーニングを続ければ、いつまでも……お若くいられますよ!」と言ったのです。「……」のところでいろいろ考えたんだと思います。どう言えばこの人は入会する気になるかな、と。で、きっとこの熟年女性は若さを求めているに違いない、と判断したのですね。でも、生きていれば歳はとるもの。私が欲しいのは、若さではなく51歳なりの健康と筋力なのですよ。61歳なら61歳なりの、71歳ならそれなりの、健康な体が欲しいのです。中には25歳のまま時を止めたいと強く願い、いつまでも若者みたいな姿でいることを目指す人もいるでしょう。けど全ての中高年が、猛烈な若返りを望んでいるわけではありません。物理的に、どうやったって若返れないしね。

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かねて気になっているのですが、若い人が若くない人に若いですねと言うのは現状否認ではないのか。「お元気ですね!」とか「素敵ですね!」はわかります。もし私が70歳だったら、年下の人に「お若いですね!」と言われたら「いや若くないですよ。事実としてあなたより歳をとっているし、70歳は高齢者でしょう」と返したくなるけどな。「若い」は「歳をとっている」と同様、単に状態を表す言葉です。それを善意からとはいえ躊躇なく褒め言葉として用いるのは、加齢は悲しむべきことだと決めつけているようなもの。かえって失礼じゃないかと思います。