「腰痛」の奥深い世界。ヘルニアのメカニズム、自分でできる腰痛改善策は?


山田:残りの2割で、若い方に比較的多いのが「腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア」という病気です。

編集:聞いたことがあります!

山田:腰椎、つまり背骨がしなやかに曲がるのは、骨と骨の間に柔らかいクッションの様な働きをする構造物(=椎間板)があるからなのです。

その椎間板ですが、中にジャムが入ったマシュマロの様な構造をしているんですよ。

編集:「椎間板」の画像を検索して見てみると、たしかにジャム入りのマシュマロみたいですね!

山田:この「椎間板」ですが、何度も背骨を曲げ伸ばしして潰されたり伸ばされたりしているうちに、マシュマロの中からジャムが飛び出してしまう、というような状況になることがあります。そしてそのジャムが背骨の中にある足に繋がる神経を刺激して、痛みを起こすんです。

この「腰椎椎間板ヘルニア」の場合、腰痛とともに太ももや足に痛みや痺れが出たりすることもあります。こうした症状で、いわゆる「ぎっくり腰」などと差別化ができるんですよ。

編集:「腰椎椎間板ヘルニア」って、そういうメカニズムだったのですね。

山田:また、高齢者では、腰の骨の感染症、がんが骨に転移していた場合、骨粗しょう症を背景とした圧迫骨折などの可能性も考えながら診断していきます。感染症の場合は、腰痛の他に熱や寒気がないかなどを考えますし、がんの治療中ということでしたら転移を疑います。

がんが見つかってない場合でも、普通に食べているのに体重が減ってしまう場合はがんの可能性もありますので、意図しない体重の減少がないかも注意します。骨粗しょう症があるような年齢の方には最近転んでいないか、尻もちをついていないかなども確認します。周辺の情報を丁寧に集めることが、原因を特定する上で、非常に大切なのですよね。

編集:ちなみに、腰痛で受診する場合は、かかりつけ医の内科の先生でよいのでしょうか?

山田:そうですね。内科医でもよいですし、筋肉や骨の問題は、整形外科医が比較的得意としている分野です。

編集:腰痛にならないために、日頃から気をつけておくべきことは何かありますか?

山田:日常生活で、何か腰に負担がかかる行動をしていないか、と振り返ってみるのがよいかもしれません。

重いものの持ち運び一つとっても、背骨を曲げながら床にある重いダンボールを持ち上げると、その重さを腰骨で直に受けることになってしまいます。ですが、太ももや膝を曲げてお尻を床に近づけ、そのまま垂直に持ち上げた場合には、負担がかかるのが太ももの筋肉ですので、腰への負担は避けられますよね。

他にも、背骨の自然な湾曲を保つような姿勢を意識するなど、改善できるポイントは意外とたくさんありますよ。

編集:先生の著書『最高の老後』にも、腰痛で苦しんでいた女性の痛みの原因を探ってみたら、実は台所の台の高さが合っておらず、料理の時にいつも腰を曲げて腰に負担をかけていたから、というエピソードが紹介されていましたよね。

山田:そうですね。その方の場合、腰痛の解決策は痛み止めでも注射でも検査でもなく、キッチンの改修工事だったのです。

編集:腰に負荷がかかりすぎることや、無理な姿勢には気をつけたいと思います!

山田:最後に、「腰痛にこんな症状がプラスされていたらすぐに病院を受診してほしい」という症状をご紹介しておきますね。

まずは、足の力が急に入らなくなった場合。あるいは、尿や便を漏らしてしまったり、高熱が出たり、体重が減り続けている、という場合は緊急性が高いので、すぐに医療機関に問い合わせていただく必要があります。

編集:その場合、何が起こっているのですか?

山田:特に足の力が急に入りにくくなったり、尿や便を漏らしてしまったりという場合には、背骨の中を走っている神経が急激に圧迫されている可能性があります。症状にもよりますが、緊急での手術や薬の投与が必要なこともあるため、急いで受診した方がよいですね。

一方で、全体を俯瞰してみれば「急性腰痛症」の8割程度が筋肉や靭帯由来のものです。腰痛だけの話であれば、そんなに慌てなくてもよい場合が多いのではないかな、と思います。

編集: 全体像がつかめなかった腰痛の世界が、私の中で少し整理されたような気がします。多くの方にとって身近な症状なのに学ぶ機会がなかったので、すごく勉強になりました。ありがとうございました!

 

世界的な「仕事を休む原因」第1位は、なんと「腰痛」!原因や受診の基本をおさらい_img0

『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』
著:米マウントサイナイ医科大学 米国老年医学専門医 山田悠史
定価:本体1800円(税別)
講談社

Amazonはこちら
楽天ブックスはこちら

高齢者の2割には病気がないことを知っていますか? 今から備えればまだ間に合うかもしれません。

一方、残りの8割は少なくとも1つ以上の慢性疾患を持ち、今後、高齢者の6人に1人は認知症になるとも言われています。
これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。
カナダおよび米国老年医学会が提唱し、「老年医学」の世界最高峰の病院が、高齢者診療の絶対的指針としているものです。

ニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。



構成/新里百合子

 


山田悠史先生のポッドキャスト
「医者のいらないラジオ」


山田先生がニューヨークから音声で健康・医療情報をお届けしています。 
以下の各種プラットフォームで配信中(無料)です。
ぜひフォローしてみてくださいね。


Spotify
Google Podcasts
Apple Podcasts
Anchor
Voicy


リクエスト募集中!

ポッドキャストで話してほしいテーマ、先生への質問を募集しています。
番組へのご感想や先生へのメッセージもお待ちしております。
以下の「応募する」ボタンから気軽にご応募くださいね!

応募する

世界的な「仕事を休む原因」第1位は、なんと「腰痛」!原因や受診の基本をおさらい_img1
 

前回記事「風邪やインフルエンザの治療に「抗生物質」は必要ない?いざという時に薬が効かなくなってしまう理由【医師の解説】」はこちら>>