平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。
第39話 認められない
「くぅ~、今年もこの時期キタ~」
僕と同僚の講師たちは、デスクの上に積まれた「6年最終志望校調査票」と面談シフト表を前に身もだえした。
僕たちは大手有名中学受験塾の講師として働いていている。一応、僕もこの道10年以上、いくつかの校舎で経験を積んできた。だが今年配属になった校舎は都心の超一等地にあり、もっとも「ヤバい」ことで業界内では有名だ。
そのことを痛感するであろうイベントが、6年生の秋に保護者と講師とで行われる志望校決定面談。当然生徒一人ずつ、30分の面談を設定するので、講師は大忙しになる。
秋は教育熱心、いや「教育狂気」が最高潮に高まった保護者達のメンタルが危険水域に達する時期。それをまともにくらう講師たちにもまた、かなりのプレッシャーがかかる。
「里中先生は、36歳でしたっけ? この校舎で個人面談を担当するの初めてだよね? 保護者より少しお若いから、ことさらドーンと構えてね」
この道30年、数々の模試を作成する山田先生が、にんまり笑いながら手持ちの扇子でパタパタと僕をあおぐ。めっちゃ笑顔で丁寧に、恐ろしくサディスティックな課題を出すので生徒から恐れられている最恐の算数の先生だ。
「はい、以前いた校舎では面談も受け持っていましたけれど……。やっぱり違いますか? 超都心の緊張感……」
僕が恐る恐るたずねると、周囲のデスクにいる講師が全員こちらを向いて、ものすごい勢いで頷いた。
「里中先生。この校舎の保護者はね、ヤバいんですよ……!」
秋の夜長、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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