平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。
第33話 不気味な隣人
「うわっ、やば……!! ボール入った……!」
おれは思わず両手を頭の上に置いてのけぞった。
滑り台みたいな遊具が何もなくて、近所のみんながいまひとつ使いみちのわからない、住宅街の小さい公園。おれの家から徒歩3分、サッカーのボールさばきの練習にピッタリなんだけど……致命的な欠点がある。
公園を囲む、2メートルくらいの壁の向こうは、一軒家。つまりひとの家なのだ。
――やばいやばい、よりによって「貞子」の家だよ……!
誰もいない夕方、最後にゴールの練習! とばかりに壁にボールを当てていたら、コントロールが狂って壁の向こうに飛び込んでしまった。そこは6年生の間でもやっかいな家として知られている。
おれは慌てて運動場を一度出て、隣の庭を鉄格子みたいな柵ごしに偵察する。
庭には誰もいない。木がたくさん植えてあって、友達とがんがん遊べる広さ。でも夕方は暗くて怖い雰囲気だ。
縁側の向こうに、おれのサッカーボールが転がっている。長くなった雑草に埋もれているけど、相棒、そこにいてくれ……!
「万が一、ボールをまた蹴りこんじゃったら、ちゃんと玄関から呼び鈴を押して謝ってから取りにいかせてもらうんだぞ」
父さんの言葉がちらっと頭をよぎる。半年くらい前に蹴りこんだときは、父さんが一緒にお菓子をもって一緒に謝ってくれた。でも今夜、父さんは遅くまで仕事でいない。だから自分でなんとかしないと。
大丈夫、縁側のところの大きな窓は、カーテンが半分閉まっている。夕方だけどリビングの電気はついていない。
庭には洗濯物のシーツが干してあるけど、それも干しっぱなし。
つまり、「貞子」はまだ帰ってきていない。
おれは意を決して、鉄格子の一番幅が太いところからそうっと身を滑り込ませた。
夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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