平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。
第40話 友達ができない
「うう……寒い……!」
引っ越して4週間。朝、アパートの窓を開けて、思わずつぶやく。
10月下旬だというのに、すでに東京の12月くらいの気温だ。
思わずため息を漏らすと、なんと白くなって、慌てて窓を閉めた。窓には結露ができている。
「さてと……お掃除でもするか……」
ひとつも予定はないし、部屋は小さな2LDK。掃除を急いでやる理由もないのに、ひとは暇になるとむしろ規則正しくなってしまうのかも。
夫の彬はすでに「早番」のため朝の4時にタクシーで空港に出勤してしまった。
航空会社に勤めている彼に、転勤の辞令が出たのは9月1日。10月1日に北海道の空港勤務開始のため、急いで引っ越してきた。近所のカフェで働くのが大好きで、ちっとも辞めたくなかったけれど、事情を話すと「夫婦は離れたらいけない」とすぐに代わりのひとを探してくれた。それで帯同することになんとなく、決まった。
結婚して5年、36歳。子どもができたら楽しそう、と思いながら自然に任せていたら授からず、今日にいたる。
ペーパードライバーで、車の運転も勇気が出ず、徒歩30分のイオンまで自転車に乗って向かう。それがほぼ唯一の、外出の用事。
北海道とはいえ、国道沿いはどこも似たような大型店が並ぶ。でも、駅前は驚くほどさびれていて、アパートを借りるとき彬に「とにかく駅近物件にして!」と頼んだことを後悔した。
――あーあ……専業主婦だから、習い事でもすれば友達ができると思ったけど……。このまま、3年間誰ともしゃべらなかったらどうしよ……。
北海道も札幌だったら違っただろうが、この町には習い事の類を見つけられずにいた。
友達が欲しい、なんてアラフォーにもなって青臭いけれど、とにかく知り合いが一人のいないのは辛すぎるし時間を持て余す。
イオンの「地元の掲示板」コーナーの前でぼんやりと情報をチェックしていると、地域センターでハンドマッサージ講習というのを見つけた。ワンコインで1時間。うん、これなら主婦友ができるかも……?
私はがぜんうきうきしながら、そのメッセージを丁寧にスマホで写真にとって、イオンをあとにした。
秋の夜長、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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