平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 

第41話 クロスピック~荷物取り違えに注意~

 

「お母さん、聞いてる!? もおお、学芸会、土曜日だよ!? ほんとに間に合うの?」

国際電話とは思えないクリアな音声で、娘の早紀の声が響く。

空港は夜の22時にも関わらずごった返している。悪天候の影響かもしれない。きっと皆、私と同じように、欠航続出の影響で乗り継ぎや出発ができずに困惑しているに違いない。

「ごめんごめん、でも新しいフライト取ったよ、明日の夜には日本に帰るからね。早紀が主役の劇、絶対に見に行くから!」

電話の向こうで、「早紀~ごはんだよ~! 久留実、気を付けてなあ、明日待ってるぞ~」と夫の声がした。

新聞記者をしている私は、突発的な仕事で家をあけることも多い。それでも、今回のように予定外の飛行機遅延で延泊するのは初めてだった。改めて、在宅ワークが中心の夫がフォローしてくれていることがありがたい。

国際的な会議があって、その取材をした帰り。ヨーロッパで乗り継ぎをしたけれど、まさかその空港で24時間も滞在する羽目になるとは。

私は、空港近接ホテル行きシャトルバスの表示を探して、キャリーケースを引いて歩き始めた。

その時、突然、腕をつかまれる。驚きのあまり小さく声が出た。

「そのスーツケース、間違えてるぞ」

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秋の夜長、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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