平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 

第37話 恩師の散歩

「もう少しだけ早く出版できていれば...」38歳、遅咲き作家。この世にいない「サイン本を一番渡したかった人」とは?_img0
 
松永先生

先生、ご無沙汰しております。2004年卒の咲田春奈です。
いつの間にか卒業して20年も経ってしまいました。
最後にお会いしたのは卒業10周年のクラス同窓会でしたので
先生は現在の私を見てももう分からないかもしれないと思うと
ご挨拶に伺う足が遠のいていました。
今日は先生にぜひ一言、御礼をお伝えしたいと、
フォローしている先生のFaceNoteアカウントにメッセージをお送りします。

じつは来月10日、ようやく初の小説を出版することになりました!
小説新進の新人賞(というにはだいぶトウが立っていますが)をいただき、
38歳でこんなに嬉しいことがあるとは、驚いています。
学校を卒業してからは、まったく違う仕事をしていましたが、
コツコツ書くことを続けられたのは、先生の一言があったおかげです。
松永先生、あのときは本当にありがとうございました。
本が出版されましたらば、すぐにお送りいたしますので、どうか読んでください。

元3年3組咲田

メッセージを何度も読み返してから、私は思い切って送信ボタンを押す。

母校である私立女子校を卒業したのは20年も前だから、いくら元担任と言えども先生は困ってしまうかもしれない。

先生はお人柄が優しいので、あの英国紳士のように蓄えた口ひげを触りながら「どれ、どんな子だったかな?」と卒業アルバムを引っ張り出して、なんとか思い出してくださるはず。

私は、勇気を出してそのメッセージを送れたことでほっとして、その夜は幸福な気持ちでベッドに入った。


翌日。

会社の昼休みにスマホを手に取ると、新着メッセージの知らせが表示されている。

私は何かの合格発表のようにどきどきしながら、そのメッセージを開いた。

次ページ▶︎ 翌日届いた新着メッセージとは?

秋の夜長、怖いシーンを覗いてみましょう…。
▼右にスワイプしてください▼