BTSはなぜ、世界の人々を夢中にさせるのか――。
社会学やマーケティングなどさまざまな分野からBTSについて研究・発表するBTS学会が、今年8月マレーシアのクアラルンプールにあるマラヤ大学で開催されました。4回目となる今回は、「東南アジアとBTS」「BTSの未来」を大きなテーマに、約60人が発表しました。インドやインドネシア、ブラジルはARMY(BTSのファンの愛称)がたくさんいる地域としても知られています。それぞれの国での人気の理由を探るべく、マレーシア取材を敢行。インタビューからは、各国の意外な事情が浮き彫りになってきました。後半ではインドとブラジルのARMYの声をお届けします。
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BTSの存在は、わたしたちインドの若者たちにとって、新たな価値観や生き方を模索する一つの指針
ヴァルシャ・ナラヤナン(インド/ジャーナリスト)
大学生の頃、友だちに薦められてBTSを知りました。最初はさほど興味を持たなかったのですが、控えめで自然体で、つらいことがあってもファンと共有するメンバーの姿勢に引き込まれていきました。特に、「LOVE YOURSELF」の「自分を愛し、受け入れよう」というメッセージは、インドの社会的なプレッシャーや周囲の期待に抑圧されていたわたしにとって、すごく心に響いたんです。
インドはBTS関連のYouTube再生回数が日本に次いで2位(中央日報・2022年)という、ARMY大国です。インドにはボリウッドダンスのように華やかに踊るエンタメ文化があり、それがK-POPと親和性がある一因とみる人もいるでしょう。でも、BTSが人気の理由はそれだけではない。彼らの楽曲やメッセージは、インドの社会問題、つまりジェンダーやメンタルヘルスなどとも深く関連していて、ファンがそれらの問題への認識や連帯を深めるきっかけとなっているのです。
インドの社会には、「良い成績を取って良い大学に行くべき」「特定の年齢になったら結婚して子育てをするべき」という伝統的な価値観が色濃く残っています。自分の意志よりも、周りの目を気にしながら生きるプレッシャーがある。そんななか、BTSの曲を聴いて「人生を決めるのは、周りの人でなく自分なんだ」と感じるようになるのです。
ただ、インドでは欧米のアーティストやバンドに比べて、K-POPや東アジアのアーティストには、明らかにステレオタイプな偏見が存在します。特に、インドの男性は髭を生やしてマッチョであるべきとされるため、髭がなくメイクをするK-POPアーティストに対する誤解がある。わたしも友だちに「K-POPアーティストが大好きだなんて公言すると、結婚できなくなる」と言われたこともあります。リサーチによると男性のファンも、20%ぐらいいるのですが、オープンにできずに隠している人が多いようです。
でも、インドの若者たちの中には、伝統的な価値観から解放されたいと願う声も多く、SNSで自分の気持ちをオープンにする人も増えています。SNSでつながっているインドのARMYたちは、みんなあたたかい。わたしがこの学会で発表すると言った時も、渡航費を募ってくれると言いました。資金は辞退しましたが、リサーチにも快く協力してくれました。
BTSはインドに新しいムーブメントを起こしています。「MIC Drop」に「Haters gon' hate Players gon' play(ヘイターたちはヘイトを続け、プレイヤーたちやプレイし続ける)」とい歌詞があります。理解できなければ、それでいい。BTSの存在は、わたしたちインドの若者たちにとって、新たな価値観や生き方を模索する一つの指針。いつかインドでコンサートを実現してくれることを、心から楽しみにしています。
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