現実逃避と聞くと、大抵の人は悪いイメージを抱く。

やるべきことから目を逸らしている。その場しのぎで何の解決にもならない。現実逃避に対する世の中の声は、大方こういう感じだろう。

しかし、声を大にして言いたい。健やかに人生を生き抜くためにも、上手に現実逃避できる術を身につけておいた方が良いのではないだろうかと。

事の発端は、9月のはじめ。身の回りでちょっと困ったことが起きた。おかげで、メンタルは駅のフリーWi-Fiくらい不安定に。

朝起きても体が重い。パソコンの前に座ってもやる気が出ない。捨てっぱちな気持ちでソファに倒れ込み、とりあえずFire TVを立ち上げる。こんな日は今ハマりにハマっている『みなと商事コインランドリー2』(テレビ東京)を観て、嫌な気分を忘れるしかない。

 

お気に入りは、第8話。主人公の湊さんが恋人のシンと温泉旅行に行く回だ。何度見ても酔っ払っている湊さんは可愛さの限界を突破しているし、いつもは性急なシンがこんなときだけまるで硝子細工を扱うように優しく額にキスをする仕草に、湊さんを大切に想う気持ちが溢れていて、神がつくりし楽園はここにあった……と、とりあえずテレ東の方角に向けて五体投地した。

そして色違いの浴衣を着ている2人を観ながら、思ったのだ。え? 僕もここに行きたい、と。

早速エンドロールを調べると、どうやらロケ地は湯河原らしい。電車に乗れば、特急に乗らずとも1時間30分で着く。余裕である。これは行くしかない。普段はYogiboの上から1ミリも動きたくないほど怠惰なくせに、こういうときだけ異常にお尻が軽いのがオタクである。僕は早速直近で2日間予定が空いている日を絞り出し、Googleカレンダーに「湯河原」と書き込んだ。

 

1泊2日のひとり旅なんて身軽な方がいい。リュックには、1日分の着替えと最低限のトラベルセットで十分。当日、さあ、早速出発しようとリュックを背負ったら、ふと何かに見られているような錯覚を覚えた。視線の正体を探っていくと、そこにあったのは買ったばかりのアクリルスタンド、いわゆるアクスタだった。