新しいものを得るために、不要なものを手放すという選択
——井浦さんも駆け出しの頃にササポンのような存在に影響を受けた経験はありますか?
井浦:大学生の頃は仲間とお酒を飲んでばかりの日々だったのですが、音楽好きの友だちを通じて知り合ったおじさんたちからはものすごく影響を受けてきました。自分の知らない知識を教えてくれる先輩もいたし、僕をいろんな場所に連れ出して新しい経験をさせてくれる先輩もいたし。まだ自分のやりたいことが定まっていなかった僕に視野を広げるきっかけを与えてくれて、一人でも動いていけるように育ててくれたんです。今や僕も年齢的におじさんの仲間入りをしたので、お世話になった先輩たちに恩返しをしたい気持ちもありますが、久しぶりに会うと「まだまだ勝てない」と思います。
——ササポンは達観しているように見えますが、自分のことを「諦めるようになっただけ」と分析しています。そこに共感できる部分はありますか?
井浦:ササポンは諦めるという言葉をネガティブな意味合いで使っていなくて、新しいものを得るために不要なものを手放したんだと思うんです。自分にとって〔必要・不必要〕をちゃんと見分けられることが年長者の特権です。でも僕自身は欲深い人間なので、ササポンと違って諦めるという選択を避けてきたタイプかもしれません。実現できる可能性が低くても、諦めないでしがみついたり、もがいたりして、それで無理が生じて調子が悪くなったこともあります。あんまり頭が良くないから、失敗を回避できなくて、自分自身でトライ&エラーを重ねることでしか前に進めないんです。
失敗することは本当に辛いですし、失敗をたくさん経験したからといって何かを悟ったわけでもありません。でも、20代の頃から諦めることを選ばなかったからこそ、キャリアを振り返ったら「ずっと好きなことをやらせてもらってきた」という結果が残っているので、そこは今後も変わらなくていいのかと思っています。もちろん他の人に迷惑をかけるような失敗は避けたいですが。僕の場合は失敗を恐れて立ち止まってしまうと、それこそ人生が詰んでしまうような気もするので。
——お仕事をしていて年齢を重ねて良かったなと思う瞬間はありますか?
井浦:なんだろう。キャリアを重ねたらもっと余裕が出てくると思っていたけど、実際は今でも必死です。今回もササポンの趣味であるピアノの練習が大変で大変で、本番直前までノーミスで弾けなくて。そういう意味では僕も日々、詰んでいます(笑)。
<INFORMATION>
映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』
元アイドルの安希子(深川麻衣)は、幸せで充実した人生を歩んでいると自分に言い聞かせながら日々の仕事に励んでいた。しかし、ある日の通勤途中、駅で突然動けなくなってしまう。メンタルを病み会社を辞めることになった安希子は、仕事もお金もなく、現実に直面する。そんな時、友人から、都内の一軒家でひとり暮らしをする56歳のサラリーマンとの同居生活を提案される。予想外の提案に戸惑いながらも安希子は、ササポンと呼ばれるその中年おじさん(井浦新)との奇妙な同居生活を始めるが……。
深川麻衣
松浦りょう 柳ゆり菜 猪塚健太 三宅亮輔 森高愛 /河井青葉 柳憂怜
井浦 新
原作:大木亜希子「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(祥伝社刊)
主題歌:ねぐせ。「サンデイモーニング」
音楽:Babi
脚本:坪田文
監督:穐山茉由
製作幹事:KDDI 制作プロダクション:ダブ 配給:日活/KDDI
撮影/榊原裕一
取材・文/浅原聡
構成/坂口彩
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