「自分にとって居心地のいい空間を作るために、自分が何が好きかを深く知るのは、とても大事なこと」と語る、行正り香さん。今回は、好きな色、形、家具のスタイルなどから、自分の好みを分析するためのポイントをお伝えします。

 

家具のスタイル、壁や床の素材、照明の色。自分が居心地いいと感じるのは?


前回、【HOMEWORK】 として自分の「好き」を具体化するヒントをお伝えしました。「こんな世界観が好きだな」と感じる写真はたくさん集まりましたか? いろんな写真を見返すのは楽しいですよね。

さて、今度はその「好き」をどう再現するか、という段階です。この段階では残念ですが、たくさんの「好き」をほぼ捨てて、たった一枚の「好き」を選んでください。好きなものをたくさん見つけたのだから、すべてを空間作りにいかしたいかもしれませんが、デザインとは情報の引き算です。真似したいことを一つだけ選ばないことには、取り入れる段階まで進まないのです。

以下の写真は、私がデザインした空間です。こちらで「好き」を整理する練習をしてみましょう。

これらの空間はすべて北欧家具を組み合わせていますが、[モダン][クラシック][ジャパン]という3種のスタイルに大別されます。スタイルを定めているのは、大きな面積を占めるテーブルや椅子、それらに合わせて選ぶ壁や床の素材、照明器具の色やラグの配色です。まずはこちらから、自分にとって居心地のいい空間はどれかを分解してみましょう。

[モダン]のスタイル

モダンな雰囲気の空間は、スチール製がベースの丸いテーブルとアルネ・ヤコブセンデザインの椅子、ガラスブロック、白い照明やベージュのカーペット、そして原色の黄色が使われている絵、チェリー材のピアノなどで構成されています。これらの組み合わせにより都会的な雰囲気を生み出しています。
 

[クラシック]のスタイル

クラシックな雰囲気の空間は、ヴィンテージのローズウッド素材の大きなテーブルに椅子、銅素材の照明器具、それらをのせたときに落ち着くローズグレーのカーペット、さらにグレーの反対色の赤いラグを組み合わせています。赤とは反対色となる青みがかった色の絵を中心に、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
 

[ジャパン]のスタイル

ジャパンな雰囲気の空間が目指すところは、“洋の茶室”です。白っぽい色みの土壁とよしずを使った天井を選び、それらの色みと同化するベージュのテーブルや椅子、ラグを組み合わせることで、家具が浮き立たない配色にしています。全体をシンプルにしたことで掛花や掛け軸が合う空間となっています。照明器具は巾木や廻り縁に真鍮を配したところから、同じ素材の真鍮を選びました。
 

「自分の家に合うかどうか」。もう家具店で迷わない


モダンな要素を醸し出すのはスチールやクロームの存在感です。クラシックな雰囲気なら、ローズウッドなどの濃い色の木と青や赤の配色、そしてジャパンな印象を与えているのは、やはり土壁や天井の素材感と自然を感じる家具の配色です。あえて比較することで、自分が好きなスタイルのパターンが見えてくると思います。

ここまで分解できれば、IKEAでも近所の家具店さんでも「モダンにしたいからソファの足はスチールにしようかな」「クラシックにしたいから、木はマホガニーかローズウッド色にしようかな」…… と何を選べばいいのかがわかってきます。ファッション写真を参考に、モデルさんが着ているものを全部買わなくても、似たような雰囲気を生み出せるのと同じ理屈です。

まずは自分が好きと思う、真似したい空間を一つだけ選ぶ。

そして、そのどこが良いのか? それらはどんな素材を組み合わせているのか? どんな家具が、どんな照明器具が設置されているのか? ……たくさん集めた憧れの写真をじっくり観察して、要素を細かく分解していくことではじめて「真似するチャンス」が生まれます。

難しいように聞こえるかもしれませんが、料理もファッションも、そして空間も基本は同じです。まずは憧れやお手本を見つける。そして真似する。最後に自分らしくアレンジして取り入れる。このパターンを繰り返すことによって、みなさんの好きな空間が出来上がっていきますよ!
 


納得のいく家づくり・部屋づくりのための 
〈 HOMEWORK 〉

自分が真似したいと思う空間の写真を「1つだけ」選びましょう。そして、以下の項目を書き出してみましょう。

□ 部屋の壁や床はどんな素材でどんな色ですか?
□ 家具や照明器具の特徴を書き出しましょう。
□ そこの空間を真似するとしたら、どんな家具店に行って、どんな家具を選びますか?
 

写真・文/行正り香
撮影/結城剛太

 

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