この世には、向き不向きがある。才能と言い換えてもいいかもしれない。それは何も職能に関わることだけに限らない。皿洗いの才能。靴紐を結ぶ才能。冷凍唐揚げを1回のレンチンでちゃんと温められる才能。才能の有無は、そのまま生きやすさにつながると言っても過言ではないだろう。

そこで言うと、僕は海外旅行の才能がない。

先日、数年ぶりに海外旅行に出かけた。行き先は、台湾。現地で友人と合流し、4泊5日の大人旅。コロナ禍以降、初めての海外に、それはそれは浮き足立っていた。

が、のっけから大きくけつまずいた。行きの便に乗り遅れたのである。

搭乗する予定だったのは、午前5:55発の羽田→台北便。航空会社からのメールを読むと、50分前までにチェックインをすませるよう書いてあった。それをそのまま鵜呑みにした僕は55分前の5:00に羽田に着くようスケジューリングした。この時点ですでに海外旅行を舐めている。

そして、まんまと遅刻した。正確には、予定通り5:00には着くはずだった。しかし、到着するターミナルを間違え、第3ターミナルに行くはずが、着いたのは第2ターミナル。青海駅のつもりが、間違えて青梅駅に来たアイドルみたいなことをしてしまった。

が、それでもまだ僕の神経は太かった。間違えたとはいえ、同じ空港内である。走れば間に合うだろう、と余裕をぶっこいていた。

しかし、日本の空の玄関は広かった。調べたら、バスでも10分近い距離である。ウサイン・ボルトでも間に合わねえ。

結果、第3ターミナルに辿り着いたのは、5:15。搭乗手続きはとっくに終わっている。一応、「なんとか乗る方法は……?」と苦しまぎれに聞いてみたけど、「ありません」と一蹴された。ゲートの向こう、搭乗口の先ではまだ飛行機が翼を温めている。なのに乗ることはできないカナシミブルー。ボクの背中には羽根がない。

とは言え、ここであきらめるわけにはいかない。台湾では、合流する予定の友達が待っているのだ。ネットを開き、直近で台北に向かう便を探す。すると、7:55発の台北行きに空席があった。急いで席を押さえる。航空券代は、57,850円。6万近いお金をドブに捨てることになるけれど、行けないよりはマシである。こうしてなんとか無事に午前中のうちに台北に着くことはできた。

行きの飛行機に乗り遅れ、現地ではネットに繋がれず...海外旅行が向いてなすぎる僕の話_img0
 

が、海外旅行というのは難儀なことが他にもたくさんある。次は、ネット環境だ。今まで海外に行くときは、現地でwi-fiをレンタルしていたけど、最近はeSIMカードなるものがあるらしく、2人旅行ならそちらの方が割安ということで、今回は出発前にeSIMカードを購入していた。

 

あとは現地に着いてインストールすればネット環境は万全。我ながらなんと用意周到なんだろう。少々出鼻は挫かれたが、ちょっとしたハプニングも旅の思い出。あとは綿密な計画に基づいた悠々自適な旅が待っているわ、とすでにお手つきを1回喰らっているのになぜかドヤ顔で台北松山空港に着いた。

早速、購入したeSIMカードをインストールする。しかし、ネットにつながらない。なぜだ。調べると、SIMロックを解除しなければいけないらしい。

SIMロックヲカイジョスル……?

自慢ではないけど、つい最近までBluetoothのことを新発売の歯磨き粉かなんかだと思っていた人間である。デジタル関連にはめっぽう弱い。一応、「SIMロック 解除」で検索し、その手順の書いたページに目を通してみるものの、なんのことやらさっぱりわからない。

そんなことをしている間に刻一刻と時間は過ぎ、友達との集合時間が近づいてきている。さすがにネットの力なしで異国の地を放浪する無鉄砲さは僕にはない。見ると、空港のカウンターでレンタルwi-fiが売っていた。5日間で600元。日本円でざっくり3000円足らず。このままわけのわからないSIMロック解除に手を焼くことを考えれば、必要経費と言っていいだろう。

かくしてSIMロック解除さえできれば、たった773円ですんだ現地でのネット費に、3000円近い追加の出費を支払うことになった。はい、お手つき2回目。

(どうでもいいけど、この件で初めてSIMカードが「エスアイエムカード」ではなく「シムカード」と読むことを知った。だったらKDDIは「ケッディ」にしてほしいし、SDGsは「スダガス」にしてほしい)

さすがに2回もお手つきをすると、余裕ぶっていた僕の行動も用心深くなる。どうやら海外は国内旅行のノリでは通用しないらしい。以降は、電車の乗り換えも地図の確認もことさら慎重になった。おかげで、それからの日々は特に波乱もなく過ぎた。多少余計な出費はあったものの、このままにこやかに旅を締めくくることになるはず、と信じていた。

 
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