が、最後にまた事件が起きた。それは、帰国前日の夕方。航空会社から明日の便のオンラインチェックインのメールが届いていた。なるほど、事前にこうやってチェックインしておけば当日の搭乗もスムーズになるらしい。出国の際にさんざん痛い目に遭った僕は、早速、慎重に慎重を期すつもりでオンラインチェックインを試みた。

しかし、何度トライしてもログインできない。旅券番号、姓、名。一文字一文字確認したが、誤入力はない。なぜだ。うっすらと背筋に冷たいものが走る僕に、友人が言った。「まさか苗字と名前を逆で登録とかしてないですよね?」。

そのまさかだった。試しに氏名を逆に入力してみると、あっさりログインできた。どうやらチケットを買うときに間違えて登録してしまったらしい。も〜、本当、うっかりさん★ ま、とりあえずこれでオンラインチェックインもバッチリですわ、とほくほく顔で遊びに行こうとする僕に、友達は難色を浮かべる。

「これって、このままだと飛行機乗れないんちゃいます?」

……マジで? いやいや、だって、氏名が逆さまと言っても、僕は僕ですし。ほら、パスポートの顔写真だって僕ですし。この程度で乗れないだなんて、さすがに大袈裟すぎでしょうと鷹揚に構えていたら、「ほら」と友人がスマホの画面を見せた。

「保安上の理由により、航空券とパスポートのお名前が同じでない場合はご搭乗いただくことができません」

マジだった。えー、だって、日本広しといえど、「ヨシアキ」なんて苗字もなければ、名前が「ヨコガワ」のやつもいないでしょ。ミーよ、ミー、ヨシアキヨコガワは僕ですよ! なんならマイナンバーカードも見せるから! 運転免許証も見せるから! いや、マジで僕なんですって!

結局、氏名を逆で記載した場合、1回のみ入れ替えが可能だと知り、翌朝、朝イチで空港まで駆けつけ、航空会社のカウンターで修正手続きをしてもらった。その手数料が、日本円にして約7000円。これでお手つきが3回。合計67000円余りの無駄金を払って、僕の台湾4泊5日の旅は終わったのだった。

それもこれもすべて僕が海外旅行を舐めていたことが原因と言っていいだろう。よくよく考えたら、これまで海外旅行に行ったことはあるけど、いつも航空券の手配は友達がしてくれていたし、飛行機に乗るのも誰かと一緒だった。自分で飛行機を予約し、一人で国際線に乗るのはこれが初めてだったのだ。

にもかかわらず、なんとかなるだろうという雑なマインドで臨んだことが敗因だった。海外旅行によく行く人って自由で大胆で行動力がある人というイメージだったけど、むしろ海外旅行に必要なのは几帳面さと慎重さと危機回避能力だったのである。そのどれもが僕にはない。

つくづく僕に海外旅行の才能はないな。そう実感しながら家に帰り、荷解きを始めた。すると、お土産で買った食べるラー油が液漏れしていて、スーツケースの中が真っ赤になっていた。最後の最後でお手つき4回目。

 

本気で海外旅行は向いていないと思うので、しばらくは国内を飛び回ろうと思います。

 
 

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イラスト/millitsuka
構成/山崎 恵
 

 

 

前回記事「アドバイスはいらない、ただ「わかる」と同意してほしい...たまには甘やかされたい大人たちが、他人を消費しないために必要なもの」はこちら>>

 
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