日本の植民地時代の記憶が残る韓国で、これが上映されるなんてすごいこと


田中麗奈さん(以下、田中):韓国でこの映画が上映されるなんて、すごいことだと思います。ちょっと大丈夫なのかなっていう気もするし、韓国の方々がどういう反応をされるのかなと。日本の植民地時代にどんな差別があったのかという時代背景については、私たち日本人よりよく知っていらっしゃると思うんですが――でもそれとはまた別の、集団心理の恐ろしさや、「自分たちとは違う」というだけで加害者になってしまうこと、誰もがつまらない流言飛語に躍らされ恐ろしいことをしかねないということ……そういう部分を、もしかしたら見てくださるかもしれないですね。

 

10月初旬の釜山国際映画祭での『福田村事件』の上映を前に、そう語った田中麗奈さん。蓋を開けてみれば『福田村事件』は、メインコンペ部門の最高賞「ニューカレンツ賞」を受賞、韓国の観客から高い評価を獲得できたと言えそうです。

映画が描くのは、100年前の関東大震災直後に起きた「日本人による日本人の虐殺事件」。千葉県の小さな農村を訪れていた四国の行商の一団が、「よそ者」であるがゆえに朝鮮人と疑われ、殺害された事件です。映画は「日本人の虐殺」を描きながら、その背景にある「朝鮮人の虐殺」を静かに告発します。

 

田中:この映画に関わるまで、こんな恐ろしい事件があったなんて全然知りませんでした。関東大震災の後に「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といった流言飛語に煽られ、罪のない多くの朝鮮の方が命を奪われたことは知っていましたが、それが特定の場所のみならず日本の至るところで起こっていたこと、さらに相手を「朝鮮人だろう」と疑った日本人同士で殺し合いが起きていたということーー出演するにあたり、参考となる映画を見たり、韓国大使館に行って資料なども色々見たりしましたが、なんというか、言葉にならないおぞましさでした。そんな負の連鎖が続いていたなんて、本当に苦しいです。