女性を含む普通の人たちが「やらねば」と立ち上がる戦争の恐ろしさ


脚本をもらったのは約2年前。作品に描かれている人々の行動は、ちょうどその頃に始まったウクライナとロシアの戦争に、自ずと重なっていったといいます。

田中:戦争が始まった頃、ウクライナのスーパーかなにかが「どうぞ持って行ってください」と、拳銃や武器を店に並べ、普通のウクライナ人がそれを手に訓練しているという場面が報道されているのを見ました。「戦争が始まります。兵士がいないから、銃を置いとくので自分で戦ってください」となった時に、女性を含む普通の人たちが「やらねば」と立ち上がる。 ニュースを追っていくと、元スポーツ選手の人が「多くの敵を殺した」ということで英雄のように称賛されていて……それがほんとショックだったんですよね。罪のない人たちを殺しに行くロシアの兵士たちに対しても、送り出す妻たちはどんな気持ちなんだろう……といったことも考えました。

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映画の中で女性は戦場には出ませんが、それでもそうした状況と無縁ではいられません。例えば冒頭、福田村に向かう電車の中で。夫婦は、戦死した夫の遺骨を抱える女性と乗り合わせます。智一の「良い戦争なんてない」という言葉に悔しさをにじませる女性を、静子は「名誉の戦死ですよ」と慰めます。

 

田中:「夫の死は無駄ではない」と信じたい妻の気持ちに、静子は寄り添いたかったんだと思うんですよね。でも遺骨を前にした軍人たちが「(名誉の戦死)万歳! 万歳!」とやる姿を見れば、妻としては「何が万歳なんだよ」とも思う。現代なら「国の事情に巻き込まれた無駄死にだ」と言える人もいるだろうけれど、当時は薄々わかっていても口にすることはできなかった。戦場に行く男性にとっても「戦場に行くのは名誉なこと」という理屈はうまくできているんです。でも戦場に行かない女性だって「家族が殺される」という恐怖を煽られれば、武器を取って相手を殺すことが正しいと思ってしまうかもしれない。すごく恐ろしいことですよね。