いつのまにか妻が「中受沼」へ


中学受験塾に行く、ということの意味をさほど吟味せず、由梨さん主導で息子を入塾させた博己さん。「私立中学に行きたいというなら、高校受験も面倒そうだし、いいかもね」程度の認識だったといいます。おそらく多くのお父さんも、はじめは博己さんのようなテンションだろうと思いますし、それが特段悪いことだとも思いません。

しかし、由梨さんは博己さんとは対照的に、どんどん「中学受験沼」にハマっていったと言います。

SNSや「インターエデュ」といった受験生親の情報交換サイトではリアルな情報もたくさん落ちています。しかし、匿名であるがゆえに過激になりがちですし、情報の真偽を確かめようもありません。

元来素直で真面目だという由梨さんは、ご自身が中学受験の経験がないこともあり、真摯にそれらから情報を収集しました。スタートは博己さんも由梨さんも同じような情報量と認識だったことが、博己さんを「油断」させたのです。

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「5年生の夏休み前のことです。算数が一気に難しくなり、息子は10ほどあるクラスの4番目から6番目に落ちてしまいました。まあでも塾のクラスなんて大した話じゃないですよね? しかし妻は『ここで振り落とされると二度と戻れない。今通っている塾の系列塾で、個別指導をしてくれるところがあるからそこに行く。そこに通ってる〇〇くんたちは一気に上がったの』と言います。家庭教師なんかよりは安いと思ってOKしてしまいましたが、1時間7千円から9千円ほど。それを1回2、3時間、夏休みは15回ほど通いました。

大手塾と合わせて、夏だけで30万円以上かかったと思います。まだ受験生でもないのに……この調子だと6年生はどうなっちゃうのかと思いました。僕は油断していたんです。世帯年収は1000万円ほど。ローンの額だって知っているし、妻はそのバランスの中でやるだろう、家計が崩壊するほどたかが中学の受験にお金をつぎ込むはずがないと。だから任せてしまった」

 


一般的には、両親のうち母親サイドに受験や学校の情報は集まりがちです。ママ友であったり塾であったり、あるいは子どもと過ごす時間の長さであったり、それは当然と言えば当然のこと。日々、少しずつ、博己さんと由梨さんの「情報量」と「追い詰められ度」は隔たり始めます。