見直しを求める声が以前からあったにもかかわらず、なぜこの作業は進んでいなかったのでしょうか。ひとつは、同じモデル世帯を継続した方が、前後の期間で比較検討を行いやすいという実務的な理由です。しかしそれだけが理由ではないと筆者は考えます。年金支給額をできるだけ高く見せたいという政府の意向が働いていた可能性はやはり否定できません。
単身世帯などにモデル世帯を移してしまうと支給額が小さくなり、年金があまりもらえないとの印象を国民が持ってしまいます。実態と乖離していても、22万円が給付されるという情報をたくさん出しておけば、一部の国民は(モデル世帯の対象ではないにもかかわらず)日本の公的年金はそれほど悪くないと感じるかもしれません。
実際、そうした誤解は今でも起こっています。先ほど平均的な年収の人は15万円ほど年金がもらえるという話をしましたが、15万円の年金をもらうためには、生涯にわたって平均的な年収を確保する必要があります。現実には若い時には薄給だった人も多いでしょうし、50代になると役職定年などが実施され、年収が下がる人も増えてきます。40年間にわたってずっと平均年収を維持できる人は実は少数派です。
こうした事情から、実際に年金をもらい始めると「何でこんなに少ないんだ」と大騒ぎする人が出てきます。
年金に限らず、政府の財政や景気動向など、あらゆる分野に言えることですが、将来を予想したり、現状を分析する際には、厳しめの数字を基準にするのが大原則です。厳しい数字で準備をしておけば、予想外に数字が良かった時には、それはボーナスになりますし、残念ながら予想通り、厳しい結果になっても、ある程度の対処ができているはです。
日本人は景気の良かった時代の感覚から抜けきれていない人も多く、自身に都合がいいように物事を歪曲し、楽観視する傾向が顕著です。
単身者の場合、頼れるのは自分だけですし、夫婦共働きだった世帯でも、高齢になると夫婦のどちらかが先に亡くなり、世帯収入は大幅に減ってしまいます。基本的に単身者を基準に議論した方がより現実的ではないでしょうか。
前回記事「生徒会選挙で“どの生徒が、誰に投票したか”を教師が把握できる状態に...「認識不足だった」で済ませてはいけない本当の問題点は」はこちら>>
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