イラスト:Shutterstock

選挙権の年齢が20歳から18歳に引き下げられたこともあり、近年、小中学校においても政治教育(民主主義教育)を強化すべきという声が高まっています。生徒会選挙はまさにホンモノの選挙の予行演習ですから、政治教育の中核的なカリキュラムといえるでしょう。

 


こうした中、複数の中学校の生徒会選挙で、アプリを使ったデジタル投票を実施する際、投票結果が教員に筒抜けになっていたケースが報告され、問題視されています。学校の中とはいえ、投票の秘密というのは民主主義を成り立たせる基本中の基本ですから、こうした大原則が当たり前のように無視されてしまう状況では、政治教育どころの話ではありません。

大分県のある中学校では、アプリを使って生徒会選挙を実施したものの、どの生徒が誰に投票したのか教員が把握できる状況でした。これ以外にも各地で同様のケースが報告されており、メディアの取材に対して学校側は「生徒会を軽視していた」「認識不足だった」などと回答しているようです。

この問題に限った話ではないのですが、日本では何か問題が起こると、手続き的なミスや認識不足など、些末な問題で済ませようとする傾向が顕著であり、今回のケースもまさにそれに該当します。

人によっては、この話は大したことがないと感じるかもしれませんが、そうではありません。

生徒会選挙などの仕組みが存在する理由のひとつは、児童生徒に民主主義を体験してもらうためです。高齢者の意向に偏り過ぎている日本の政治状況を改める必要性もあり、選挙権年齢の引き下げが行われると同時に、学校での民主主義教育の強化が叫ばれています。つまり、学校で選挙を体験させるプログラムは、機能不全となりつつある日本の政治を変える重要な役割を持っているのです。

したがって、ここで教えるべきなのは些末な知識ではなく、民主主義や選挙に関する、重要な価値観やルールということになるでしょう。もっと具体的に言えば、(1)選挙というものが民主国家にとって極めて重要な手続きであること、(2)有権者が誰からの圧力にも左右されず自身の判断で投票することが大事であること、(3)公正な投票を実現するため、投票結果という個人情報は絶対に守られる必要があること、といったあたりでしょうか。

こうした大事な価値観を教える場において、教師が投票結果を閲覧できる状態にしておくというのは、実際の選挙に当てはめれば、政府が、誰が誰に投票したのか把握していたことと同じです。

 
  • 1
  • 2