——ラジオショーで、「夢や野心がない」とおっしゃっていたのも印象的でした。例えば紅白に出続けたい! みたいには思わないんでしょうか。
前川:他の歌手の方は、歌というもので紅白に出たい、トリを飾りたいという気持ちがあるんです。だけど、僕はないんですよ。歌手の道がなくなったらなくなったで、違う生き方をしようと思ってる。だから(紅白に)落ちても、「まぁいいや」みたいな。本当に、そこら辺がだらしないというのか。だけど、そこら辺の適当さも、ここまで来た理由かもしれないですね。
——ある意味、好きで選んだ道ではないからこそ、結果に期待し過ぎたり気負い過ぎたりということがないのかもしれませんね。
前川:とはいえ、紅白は、最初の頃はやっぱり出たかったですよ。紅白というものは、うちの親父やおふくろが憧れてた番組だから。でも、何十回も出てるうちに、ちょっと待ってよ、と。やっぱり交代しないといけないんです。お客様は、新鮮さを求めてる。だから今、バラエティーもそうですよね。新鮮な人が出てくると、そっちの方へ移っていく。同じ人が出ていると、やっぱり新鮮さがなくなってくるんですよね。代替わりって必要だなと思うし、引き際も大事だなと考える自分がいます。
前川:今の若い人って、すごいですよ。今の歌って歌うのも難しいです。Adoさんとか、顔を見せない方が売れている。前はテレビで顔をわかってもらって、それからヒット曲に繋がった。それなのに、顔を見せないで売れるというのは、それだけ歌唱力もすごいし、表現の仕方が面白いから。昔とは時代が違うなという気はしますね。
若い人というのは、歌だけでなく、着るものにしてもそうだし、感覚もすごいです。新しい時代を築きだしていて、すごいなと思うことばかりです。
——「若い人はすごい」と言える前川さんが素敵だと思います。あえて、今の若い世代に言いたいことや、思うことはありますか?
前川:この前、福岡に行った時、新幹線で駅に着いたら、タクシーがいないんですよ。地下鉄で行かないといけなくなって。電車に乗っていると、みんなスマホを見ているんです。いまどこでもそうで、会話がないんですよ。昔はスマホなんてないから、人と人同士、何かを喋らないといけなかった。
会話をして、人というものを知って、痛い目に遭って、騙されて。そうやって来たんです。
今、恋愛もマッチングアプリとかそういったもので、顔が出て、タイプが出て、恋人を探す。今はスマホばかり見ているから、好きな人ができるチャンスがまずないと思うんですよ。寂しい世の中になったなとは思います。
でも、それくらいで、あとは言うことはないです。
撮影/柏原力
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