40代半ばで「離婚」という人生の喪失感に打ちのめされ、子供を持ちたいという願いも叶わなかったひとりの女性。深い喪失感に沈む日々から救ってくれたのは、ビーチに繰り返し打ち寄せる波と、“サーフィン”でした。

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『海に呼ばれて ロッカウェイで“わたし”を生きる』は、ニューヨーク・タイムズ紙の元記者で、ジャーナリストのダイアン・カードウェルさんが記したノンフィクション。自身の辛い経験を辿りながら、ミドル世代になって“初めて”サーフィンと出合ったことで、ささやかな幸せを取り戻していく様子を描いています。

 


40代で夫から突きつけられた「離婚」


そもそも、ダイアンさんはなぜ夫と離婚するに至ったのでしょうか。その背景には、共働き夫婦ならまったく他人事とは思えない状況がありました。

ダイアンさんは雑誌編集者からニューヨーク・タイムズ紙の記者に転身。年下の同僚たちに馬鹿にされぬよう必死に仕事に打ち込むも、仕事へのフラストレーションを四六時中抱え込んでいたといいます。片や夫も、ビル・クリントン元大統領の財団で外交政策のディレクターを担当することに。海外出張も頻繁で、電話を片時も離せない状態だったそう。

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夫婦の心がすれ違い始めたことについて、ダイアンさんはこう綴っています。
 


どこで間違えてしまったのかはっきりとはわからないが、ふたりとも仕事や友人との付きあいに忙しすぎて、おたがいや子供のことに充分に目を向けなかったのがよくなかったのだと思う。決定的な何かがあったわけではない。ぎくしゃくすることはあっても、おたがいおおむね楽しくやっていた。だからわたしたちは、というか少なくともわたしは楽しいことが幸せと勘違いしてしまった。けれど、おたがいへの軽蔑や落胆はだんだん積もり、それがフジツボのように愛の殻にくっついて勢いを失わせ、もうふたりでは進めないところまでいってしまった。
 


当時、42歳だったダイアンさんは、夫との間に子供を望んでいました。人工授精に向けて不妊治療の検査や準備を行っていたのです。しかしある夜、夫から「いまは子供をつくりたくない。ぼくたちの関係を見直す必要があると思ってる」と告げられ、最終的にふたりは離婚。人生のパートナーと子供をもつという将来を、ダイアンさんはふたつとも失ってしまうことになったのです。