平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。
前編のあらすじ 空港スタッフとして10年働いている恵梨香。ある夜、コンコースで目の前を歩いていた女性が奇妙な動きをする。気分がすぐれないのかと声をかけると、女性は何かに怯えるような仕草を見せる。理由を尋ねると、ある搭乗ゲートに人ならぬものがたくさん見えて、何か訴えているのかもしれないという。半信半疑の恵梨香だが、3日後、そのゲートで誰もいないのに重い扉が開閉する。恵梨香は「何か訴えたいのかもしれない」と言った女性の言葉を思い出していたが……?
前編はこちら空港で、搭乗口の安全扉が故障...!?奇妙なハプニングに、空港係員の頭に浮かんだ恐ろしい仮説とは?>>
第58話 空港で、誰かが見ている【後編】
「きいたよ恵梨香! 昨日、貨物から爆発物が見つかったフライトの地上インチャージだったんだよね!? お疲れ様だよ、未然に防げて本当に良かったよね」
空港のフードコートでランチをとっていると、これから遅番シフトに入る同期の由実が駆け寄ってきた。10年も働いていると、最初は50人ほどいた同期も今では片手くらい。まだ昨日のトラブルの影響でナーバスになっている私は、ホッとして思わず由実とハグをした。
「そうなのよ……本当に、未然に防げて良かった。メンテでたまたまシップ(航空機)交換になって、それが良かったの。遅延している時間に、それを知らない犯人から予告が入ったから」
「爆発物っていってもライターのオイルと火薬でつくったおもちゃみたいなものなんでしょ? 謎の音がする装置はついてたけど大きな爆発にはならないっていうし……犯人、何がしたいの!? ボヤを起こして、あわよくば火事になれってこと?」
由実が、運んできたグラタンに怒りのあまりぐさぐさとフォークを突き刺す。こういう卑劣な予告や騒動は、空港全体で年に何回があるが、ほとんどが愉快犯で、実際に事件が起こることはめったにない。ただ、今回はオイルと火薬はごく少量とはいえ、一歩間違えば事件になったはずだ。
「ね、どういうつもりだったんだろう。次は本物の危険物を貨物に入れるぞっていう脅しってこと?」
由実が首をかしげる。私は、頭の中で何度も反芻した、当日のことを思い出していた。
――あの搭乗口のドア、結局メンテさんが見ても異常はなかったんだよね。あれ、よりによって爆発物予告があったフライトの搭乗ゲートかあ……なんだか変な偶然よね。
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