ママの環境適応力に感心
リンゴ小屋のリフォームを終えたママは次に、家庭菜園にも取り組むことにしました。そのときのことを、トットちゃんはこう語ります。
ママは雪解けを待ちかねるかのように、「畑を作りましょう!」と宣言した。眞理ちゃんはママに背負われていつもニコニコしていたし、トットも紀明ちゃんも家のまわりを耕すのを手伝った。ママは野菜の種や苗も調達してきて、それをまいたり、植えたりした。季節は春だったし、トモエ学園の授業みたいで楽しかった。
どんな花が咲くのかな。どんな野菜ができるのかな。トモエのみんなは元気かな。
「いっしょに、やるんだよ」
土をいじりながら空を見上げると、空の向こうからトモエ学園の小林先生の声が聞こえてくるような気がした。
その後もママは、農協のようなところに勤めに出たり、リンゴ小屋で近所の人たちの服を縫う内職をしたり。トットちゃんが栄養失調になれば魚を食べさせようと、果物や野菜を籠に詰め込んで漁船の船員さんたちに物々交換のお願いに行ったり大奮闘!
トットちゃんは、「ママの環境適応力には、いま思い出しても本当に感心させられる。おかげで疎開先の人たちと良好な関係を築くことができたし、トットも紀明ちゃんも新しい環境に溶けこむことができたのだ」と振り返ります。トットちゃんの疎開先、青森での記憶は、どんなときでも気丈にふるまい、かつ柔軟な発想でピンチを乗り切るママの思い出であふれていました。
次回は3月19日公開予定です。
第1回「常識に囚われないパパと、魔法使いのようなママ。“トットちゃん”がきらきらした瞳で見つめた両親の姿」>>
黒柳徹子(くろやなぎてつこ)さん
東京都生まれ。俳優、司会者、エッセイスト。東洋音楽学校(現・東京音楽大学)声学科卒業後、NHK専属のテレビ女優第1号として活躍する。『徹子の部屋』(1976年2月~、テレビ朝日)の放送は1万2000回を超え、同一司会者によるテレビ番組の最多放送世界記録を更新中。1981年に刊行された『窓ぎわのトットちゃん』(講談社)は、国内で800万部、世界で2500万部を超える空前のベストセラーに。1984年よりユニセフ親善大使となり、のべ39ヵ国を訪問し、飢餓、戦争、病気などで苦しむ子どもたちを支える活動を続けている。おもな著書に『トットチャンネル』(新潮文庫)、『チャックより愛をこめて』(文春文庫)、『トットちゃんとトットちゃんたち』(講談社)などがある。
『続 窓ぎわのトットちゃん』
著者:黒柳徹子 講談社 1650円(税込)
国民的ベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』、42年ぶりの待望の続編。「トモエ学園」のその後、トットちゃんはどんな青春を過ごしたのか? トットちゃんと家族、そして周りの人たちは、戦争や疎開をどう見つめたのか——。泣いて、笑って、感動して、心を動かすことをやめないトットちゃんを通して、感動をもらえる一冊です。
写真/下村一喜(記者会見、黒柳徹子さん)
構成/金澤英恵
Comment