『マスクガール』
幼い頃からアイドルを夢見てきた十人並みのビジュアルのキム・モミは、30歳をすぎて結局は地味で冴えないOLに。唯一本当の自分でいられるのは、マスクをつけたセクシー系Vチューバー「マスクガール」として配信している瞬間だけ。ところが男たちの欲望に踊らされた上に誤ってある男(アン・ジェホン『恋のスケッチ 応答せよ1988』)を殺してしまった彼女は、全身整形して逃亡。一方、一人息子を殺された母親ギョンジャ(ヨム・ヘラン)は復讐を誓い、彼女を執拗に追い詰めてゆきます。
ドラマの前半の見どころは、小さなボタンのかけ違えから始まるマスクガールの転落とその後の逃亡劇。そして刑務所に入った後半は、逃亡中に産み実家に残してきた娘ミモを狙うギョンジャとの戦いです。女性刑務所の中はもちろんのこと、役名のある役はほとんど女性というドラマで、特に中盤以降はバイオレンスとアクションが続きますが、これも全部女性。
ギョンジャ役のヨム・ヘランは、『グローリー 輝ける復讐』で主人公に協力する「おばさんスパイ」の役で知られる韓国屈指の名女優なんですが、この人と40代のモミを演じる大女優コ・ヒョンジョン(『善徳女王』)のラストの戦いは見もの。男優なしでも迫力のアクションサスペンスができる韓国芸能界の凄さを見せつけられます。
当然ながらフェミニズム的な作品で、整形で別人になったモミ(ナナ『恋の始まりは出馬から』)が、その転落人生の中で「もう二度と他人に自分を踏みにじらせない」という決意を持ってゆく様は胸熱です。ドラマはそうした対象を男社会のみにはおかず、彼らと同じ価値観で「美しくないなら身の程を知れ」「息子がダメになったのは嫁のせい」というような呪いの言葉を吐く(実は不幸な)母親の世代にも向けられています。つまり主人公はそうした母親とも戦わなければならないという現実を、キラキラとした毒とともに、恐ろしくハードボイルドに描き出しています。
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