時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。

3月8日は国際女性デー。「ガラスの天井」を破って女性がトップリーダーになると、その先には「ガラスの崖」があるらしいです。2022年12月には、お茶の水女子大学で『「ガラスの崖」をよじ登る』という国際シンポジウムが開かれています。涙ぐましいタイトルです。なぜ女性は、そんな苦行をせねばならんのでしょう。新しい地獄の名前かと思いましたよ。血の池とか針の山とか、ガラスの崖とか。

 

「ガラスの崖」とは、女性トップは貧乏くじを引かされるということです。オーストラリア国立大学のミシェル・ライアン教授とクーンズランド大学のアレックス・ハスラム教授が名付けました。ライアン教授は20年ほど前に、英国の新聞に「ガラスの天井を破ってトップに立った女性たちは、業績を悪化させて大損失をもたらす」という女性トップに否定的な記事が載ったことに疑問を持ち、本当にそうなのか調べようと思い立ちました。二人の研究によると、女性がトップになると業績が悪化するのではなく、組織の業績が悪化している時や危機に陥っている時には、女性がトップに抜擢されやすい傾向があることが判明。当然、そんな状況でトップを引き受けても失敗するリスクが高いのですが、女性はそのようなリスクがあることを事前に十分に知らされていないか、あるいは十分なサポートが受けられない中で起用されることが多いのだそうです。いわば、見えない崖の縁に立たされて、落ちてしまうのですね。もちろん業績低迷期に登用される男性トップもいるけれど、女性の場合は男性に比べてその割合が高い傾向にあるというのです。

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なぜ危機には女性が登用されやすいのか、理由は単純ではありません。失敗するリスクが高くて男性がやりたがらないから女性にお鉢が回ってくるとか、女性を失敗者に仕立て上げるためとか、女性=新味があるというイメージを組織が利用するためだとか、業績が悪化して不安な時には、人々はリーダーに対して温かさや親切さといったステレオタイプな女性らしさを求める傾向にあるからだとか。ライアン教授は「リーダーの地位にいる女性の数は重要だが、地位の性質も同等に重要である。危機の時にのみ女性が登用されるのはジェンダー平等とは言えない」と指摘しています。