私たちを待っているのはシンデレラのガラスの靴ではない


そもそもガラスの崖に至るのは、女性がキャリアを積む際の「壊れた梯子」のせいだという指摘もあります。マッキンゼーによるアメリカとカナダの調査(2023)では、主任や係長など最初の昇進の段階ですでに女性は男性の87%しか任命されていません。キャリアの初期段階から女性は男性よりも昇進が不利なのです。ちなみに、日本では係長級に占める女性割合はわずか24.1%(2022)です。

シンデレラのお話では、いじめられてもめげずに頑張っている女の子は魔法使いのお婆さんが助けてくれて、ガラスの靴を履いてお城の舞踏会に行くことができます。そこで素敵な王子様にみそめられて、最後は結婚して幸せになれるのです。華奢で小さなガラスの靴にピッタリ入る、可愛らしい足があれば。ガラスの靴なんて、踊ったり走ったりしたら壊れてしまいそうだけど、大丈夫だったのはきっとシンデレラがとっても軽かったからではないかしら。誰のことも脅かさない、細くて愛らしいお姫様。

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そんなお話を幼い頃に刷り込まれた女性たちが世に出ると、待っているのは親切な魔法使いのガラスの靴ではなくて、ルブタン履いて頑張ってもぶち破れないガラスの天井(多分アクリル)やら、処刑台みたいなガラスの崖だなんて、これは世界一怖い童話ですか。

 

それにしても、靴も天井も崖も、なぜ透明なんでしょう。
ガラスの靴は、現実にはありえないものの象徴ですね。従順で辛抱強く無欲な女の子は、透き通った靴を与えられ、そのおかげで裕福な男性に幸せにしてもらえます。靴は女の子が身につけていると夜中の12時で消えてしまうけど、脱げれば消えずに王子様が拾い上げてくれるのです。遠くまで自由に駆けていくことはできない時間限定のガラスの靴だけが、彼女を灰の中から連れ出してくれます。女の子とは、なんと非力な存在でしょうか。

天井と崖は、靴と違って現実です。天井や崖があることはもちろん、それが見えないことが大きな問題なのです。公然と女性差別をしていなくても、実質的に女性を排除するような構造があるということですから。無茶な働き方を強いられたり、昇進の機会が少なかったり、人脈が乏しかったりするために生き残りが大変で、滅多にないチャンスを逃すまいと、女性はリスクの高い起用を引き受けてしまう。