平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 


第61話 推し活 is my life.

 

――チケット当たった!! 当たった! これで今回のツアーは『現場』に4回行ける~!

――すごい! ラッキーですね、ファンクラブ民もかなり外れてますよ今回。さすが冴子さん! でも、4回も遠征するとなると、宿泊費も飛行機代も結構大変。あ、冴子さんなら大丈夫か、正社員で有休ばっちりだし、軍資金もボーナス全振りですもんね。

SNSのDMグループは、ライブチケットの抽選直後とあって大騒ぎ。私たちが推しているアイドルグループが夏のツアーを発表、当然チケットは大激戦。ファンクラブ最古参の私でさえもあらゆる手を尽くしてどうにか確保していた。

――冴子さん、この前レイト君が発売したエッセイ、100冊買ったんですよね!? さすがです。ファンの鏡! でもそんなにどうやって保管するんですか?

鳴りやまないDMの通知。1Kの狭い部屋で、嵩高く積まれているエッセイの山をちらりと見る。

私の『推し』、一条レイト君が発売した初エッセイ。33歳になった彼の、芸能生活15年記念として発売された2200円のエッセイは、カラー写真が扉になっていることもあり強気な値段。

話題にはなったけれど、本屋さんにいくと何日経っても積まれているままで一向に減る気配がなかった。それで矢も楯もたまらず、行く先々で買い占め、気がついたら100冊以上。それをパチリと写真にとってSNSにアップして、自虐と自慢が混じった投稿をしたのでたくさんのリプがついた。

――まだまだ買うよ! 売れ残ったりしたらレイト悲しむもんね。『担当』が違うみなさんも、ぜひお願いします!

推し、って本当に不思議。生きる活力、人生を明るくしてくれる存在。42歳にもなると、さすがに33歳のレイトとどうにかなりたいという気持ちはないけれど、庇護したい、見守りたい、どんどん売れてほしい、それをサポートしたいという気持ちでいっぱい。

独身、子なしの機動力と財力をフル活用して、レイトを今年も推していこうと誓う、15年目の春。